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茜がいなくなってから、私は死を願いながら生きることをやめた。
まずは真優と話すようになって、そのうちクラスメイトとも少しずつだけど話すようになった。
幽霊が見えるかどうかはもう関係ない。一度諦めてしまった人と関わることを、私はもう一度頑張ってみようと決意したのだ。
幽霊は相変わらず毎日のように見る。私が異端なのはどうしたって変わらない。でももう、それに拘らなくてもいい気がしていた。
だって、幽霊が見えなくたって、同じになれなくたって、一緒に生きたいと言ってくれる人がいる。
同じじゃなくたって、──誰よりも大切な親友になれた人がいる。
だから、いつまでも足踏みしてばかりじゃいられない。
私の友達になってくれた人に、私を大切だと思ってくれる人に、顔向けできる自分になれるように、誇れる自分になれるように。
突然拒絶を止めて、また茜が生きていた頃のように人と関わるようになった私に、周りは少し困惑していたけれど、それでも段々と受け入れてくれた。
……両親とは、まだ、和解はできていない。けれど、大学に進学したいと言った時から、ぎこちなくはあるけれど、話をすることができるようになった。おはようとか、おやすみとか、ただいまとか、そんな当たり前のはずだけど今まで存在しなかった会話が、少しずつできるようになっていった。
大学に行こうと思ったのは、やりたいことが見つかったからだ。
〝人のことが知りたい〟
〝人の気持ちが知りたい〟
それを叶えるために、私は心理学を専攻することに決めた。
あまり真面目に勉強してこなかったものだから、高校時代の残り一年半は死に物狂いで勉強した。幸いだったのは、新たに友達になった真優が成績が良く、教え方も上手だったことだった。たまたま同じ大学を目指していたこともあって、真優は「同じ大学に入りたいね」と、根気強く教えてくれた。その甲斐あって、私は見事この春志望校に合格したのだ。
『──生きて、レイ』
あの日の茜の言葉は、今も鮮やかに思い出せる。
生きる意味がわからなかった私の、生きる意味になってくれた言葉。あの言葉があったから私は、自分のやりたいことを──生きる意味を、見つけることができたのだ。
それから二年。無事に大学生となった私は、共に合格した真優と、腐れ縁が続いてまたもや進学先が同じになってしまったカズと、大学生ライフをスタートさせた。その他にも友達ができ、中々に目まぐるしい日々を送っている。
幽霊の未練を聞いて回ることは、今はもうない。
幽霊がどうでもよくなった、というわけではない。茜に言われたように、私は多分人というものが存外に好きだった。だから、生きている人にも、死んでいる人にも、興味はあるのだが、一旦、今は生きている人との関係を大切にしたいと思った。ただただ関わることを避け、正面から向き合うことから逃げ続けていた〝普通の人〟と関係を築けるようになることが、私が自分を誇れるようになる第一歩だと思ったから。
それに──彼女のあの言葉を、私は信じているから。
手紙に記された最後の言葉を、私は何度も何度も読み返した。そうして、それが彼女を失った私に差し込む光となった。私をここまで突き動かした原動力は、あの手紙に記された彼女との最後の約束だったのだ。
だから私は、今日も懸命に生きる。
──彼女が、幽霊たち(彼ら)が、そうしたかったと願ったように。私も、生きているこの時間を、大切にしたいのだ。