──七月二十一日。午前七時。
いつもよりも早い時間に私は学校に来ていた。
いつも通り屋上への階段を上ると、茜が教えてくれたコツを使って鍵を開け、扉を押し開けた。
開け放たれた扉の先に、セーラー服の背中が見える。──そこに浮かんでいる数字は、『0』。
「おはよう、レイ」
いつも通りの、能天気な声が、私を出迎えた。
「──茜。私、聞いてほしいことがあるの」
おはようもなしにそう告げると、驚いたように茜が振り返る。「なあに?」と首を傾げた茜に、私はそっと深呼吸をした。
「──成仏、していいよって、言いに来た」
「え──」
茜が唖然とする。そりゃそうだ。茜の成仏を阻んだのは私なのに、何を今更、と思うだろう。
「私、茜が死んだ時、パニックになってたから、あんなこと言っちゃったけど、本当はわかってた。私から、茜を解放しなくちゃいけないって。だから、私があの日言ったこと、もう守らなくていいんだよ」
……私の我が儘に、もう付き合わなくていいんだよ。
そう告げると、気まずい沈黙が流れた。
我ながら身勝手だ。タイムリミットギリギリまで茜のことを縛っておいて、今更何様だと言いたくなるような態度だ。それでも、私は茜を解放する。──その後のことも、もう決めてあるから、今度こそは茜を手放せる。茜を、自由にできる。
あの日犯した罪を、清算できるとまではいかないけれど、ずっと抱えていた罪悪感を、やっと手放すことができる。
「……レイ、私も、聞いてほしいことがあるんだ」
ずっと黙っていた茜が口を開いた。茜には珍しく、暗く沈んだ声だ。
「何?」
「あのね、レイ。私、初めて逢った時、言ったよね。〝私も幽霊が見える〟って」
「うん、言ってたけど……」
急に何を言い出すのかと思ったが、いつもと違う茜が纏った重苦しい雰囲気に言葉を呑まれ、押し黙る。俯いた茜の顔は見えず、どんな表情をしているのかわからなかった。風だけが何も変わらずに、茜のツインテールを弄ぶ。
「……嘘なの」
「え?」
顔を上げた茜は、決意を決めたように真っ直ぐこちらを見つめた。なぜだか泣きそうなその表情に、胸騒ぎがした。
「あのね、レイ。──幽霊が見えるなんて、嘘だったんだよ」
「え──」
その衝撃の告白に、私は目を見開いた。