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旦那さんの傍で過ごすという君枝さんと別れ、私はカズ爺と一緒に歩いていた。
『……待つわ。ずっと、ずっと』
君枝さんの言葉が、頭から離れない。彼女は愛ゆえに「待っている」ことができるのだろう。そう言える彼女は、きっと誰よりも強い。
でも、私は、そこまで強くなれる気がしなかった。だけど、このままでいるわけにもいかない。
悩んだ末に、私は助けを求めることにした。
「……ねえ、カズ爺は、どうして守護霊になったの?」
それは、最近ずっと気になっている問いの一つだった。守護霊になったカズ爺は、どうしてその選択をしたのだろうか、と。
その問いかけに、カズ爺は少しだけ、ほんの少しだけ顔を顰めた。
「──一樹が、心配でな。まあ、それも、エゴなんじゃがな」
「エゴ?」
思いがけない言葉に、思わず声が漏れる。
「そうじゃ。守護霊なんてものは、守っていると言いながら、その実エゴの塊みたいなもんじゃ。ワシはワシのためだけに守護霊になった。守護霊になりたいのなら、そこだけは勘違いしてはならん。守護してやりたい誰かのためなんて、そんなのは言い訳じゃからな」
ビクリ、と肩が震えた。まるで私の心を見透かしているかのような言葉に、醜い自分を隠したくなってしまう。
「自分がどうするかは、たとえ誰のためという理由があろうと、結局は自分のためでしかない。見返りも、期待もしてはいけない。それがわかっているなら、きっと大丈夫じゃよ」
チラリとカズ爺は私を見て、優しく微笑んだ。本当に全て見透かして、私を勇気づけてくれているみたいな言葉だ。
「……うん、そうだね。ありがとう、カズ爺」
君枝さん、そしてカズ爺のお陰で、ずっと考えていたことに決心が着いた。
暮れていく空の下、私は明日するはずの仲直りのことを考えていた。