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 それから、四年生になって、怜香とはクラスが離れた。少し経ってから、怜香の様子がおかしいことに気付いたけれど、何がおかしいのかわからず、怜香がクラスで無視されているということを知ったのは、随分後になってからだった。
 自分なりに何とかしようと、何とか怜香を助けたいと、そう思って動いた直後、俺は怜香から無視されるようになってしまった。
 話しかけても答えてもらえない、まるで俺がいないかのように振る舞う怜香に、そこそこ傷付いたけれど、何より一番辛かったのは、笑顔を見れないことだった。
 怜香は笑わなくなった。俺がしたことが嫌だったのか、傷付けてしまったのかと相当悩んだけれど、俺は怜香に話しかけることを止めなかった。怜香が俺を嫌っていることを考えれば、止めてやるべきだったのかもしれない。それでも、俺は止められなかった。諦められなかった。──怜香は、俺にとって、〝特別〟だったから。
 そうして、怜香が俺を無視するようになって、気付けば俺たちは高校生になっていた。
 クラスが違った一年の頃は、怜香に話しかける機会もあまりなかったが、それでも別によかった。──怜香に、〝特別な友達〟ができていたから。
 西村茜。可愛らしいツインテールの少女は、怜香とよく一緒にいた。あの怜香が突き放さないのだから、怜香にとって相当特別な相手だったのだろう。自分が怜香にとっての特別になれなかったことは悔しくもあったが、俺は西村さんに感謝していた。
 ──怜香が、また笑うようになったからだ。
 怜香を知らない人から見たら些細な変化かもしれないが、俺からしたら青天の霹靂だった。あの怜香が、また楽しそうに笑っている。普通の子のように、人間らしい感情を見せている。……まるで、昔のように。
 彼女がいるなら、俺はもう必要ない。自分勝手な感情(エゴ)にしがみついてないで、もう怜香を解放するべきだと、そう思った。怜香が笑ってくれるなら、もう、それだけでいいと。
 ──しかし、その西村茜が、一ヶ月ほど前に事故死した。
 それから、また怜香は笑わなくなった。

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『〝見えない〟あんたには、〝普通〟のあんたには、私の気持ちなんてわかるわけないっ‼』
 怜香の叫びは、痛いほど胸に沁みた。
『──私は、普通じゃない人間(見える人)の言葉しか、信じない』
 そう言われてしまったら、もう何も言えなくなる。俺には幽霊は見えない。普通の人間だから。見えない俺が何を言っても、怜香には届かない。
「……どうすれば、お前に俺の言葉を届けられる?」
 一人呟いた。
 ──俺の言葉は、君には届かない。