* * *
病院を後にし、その足で公園へと向かった。斎藤りゅうせいに会った、あの公園だ。
「待たせたね」
視線の先にいたのは、ブランコに腰かける二つの人影。
……まあ、私にしか見えていないだろうが。
「レイ、早かったね! ……それで、どうだった? 小久保君の容態」
「念のために検査入院するだけで、どうってことないって。明日には学校に来れるって言ってた」
その言葉を聞くと、茜は安心したかのように胸を撫で下ろした。……そして、同じく胸を撫で下ろした奴がもう一人。
「……よかった、本当によかった……」
悪霊化しかけていた、柿本信次だった。
──あの後。
意識を失くした小久保一樹を見て、柿本信次は我に返った。悪霊化の兆候である黒い靄も消え失せ、「どうしよう、こんなつもりじゃ……」と泣き出しそうなほど狼狽えていた。
彼も、本気で私を殺そうとしたわけではない。成仏できないままで負の感情に呑み込まれると、力が無意識に暴走してしまうらしい。
その後、すっかり意気消沈した柿本信次を茜に任せ、私は小久保一樹の容態を確認しに行ったのだ。
「俺、本当にあんなことするつもりじゃなくて、彼にも、小松さんにも酷いことした。許されるとは思ってないけど、本当に、……本当に、すまなかった」
柿本信次は悔いたように頭を下げた。
「別に、私は気にしてない」
謝罪なんて本当に必要なかった。あれはカウントダウンが終わっていると知りながら、不用意に柿本信次に近付いた私の自業自得だ。
「でも……」
「そんなことより」
まだ何か言い足りなそうな彼の言葉を遮って、私は話し始めた。
「柿本信次、あんた、思い出したんだな」
その言葉にはっとしたように柿本信次は目を見開いた。そして、少し気まずそうに目を伏せて頷いた。
「ああ。──全部、全部思い出した」
彼は話し始める。彼が生きていた時間のことを、そして──彼の時間が止まってしまった時のことを。