*    *     *

「レイ、起きて! 時間だよ。授業始まっちゃう‼」
 甲高い声に鼓膜を揺さぶられ、私はゆっくりと目を開いた。眩しすぎる空の青が目に飛び込んできて、思わず目を細める。
「ん……」
「ほらほら起きて! さっさと行かなきゃ授業に遅れちゃうよ~」
 私としてはそれでもよかったのだが、煩い奴が居るので起きなければならないようだ。
「わかったからもう黙れ。煩い」
「レイ、辛辣すぎる……」
ショックを受けたような顔をした茜は放っておいて、私はよいしょと立ち上がる。皺が付いたスカートを手早く直すと、さっさと屋上の扉へと向かった。
「レイ、今日は私、ここで待ってるね」
後ろでそんな言葉が聞こえて振り返ると、茜が青空を見上げていた。そう言えば、茜は晴れた日の空を見るのが好きだった。今日は自棄に綺麗な青空だから、もっと見ていたいと思ったのかもしれない。
「うん、わかった」
物分かりのいい奴みたいに、そう返事をした。
『37』
……華奢な背中に浮かび上がった、着々と減っていくその数字も、茜が浮かべた切なげな表情も、全て気付かないふりをして。
私は茜に背を向ける。そして振り返らずに扉へと向かった。
青空の下の屋上に茜を一人残し、扉を閉める。ガシャン、という軋んだ音と共に、私は薄暗い階段へと足を踏み出した。