どう考えても俺の彼女は明らかに俺を避けている。
そのことに気づいたきっかけは、彼女からのメッセージの返信が急によそよそしくなったことだった。
いや、違うな。
付き合う前のメッセージのやり取りに戻っただけというか。
自分で考えついてぞっとした。
確信したのは、バイトで同じ曜日に入っていたシフトに、その月の残りすべてを彼女の友人である松本さんが交代で入ったからだった。
メッセージでたずねてみるけど、のらりくらりとかわされてしまう。
「どうしよう……」
俺は大教室で朝から机に突っ伏して悩んでいた。
「優雨、おはよ」
宏樹が満面の笑みを浮かべて挨拶してくるのが腹立たしい。
こいつは最近、彼女とお揃いのペアリングなんかつけて浮足立っている。
その宏樹の彼女というのが、俺の彼女の代わりにシフトの交代で入った松本さんなのである。
「どうした?」
俺が挨拶を返さなかったので、気遣ってくれたのはありがたかったけど、どうしてもイラつきを抑えられない。
しかし。
悲しいことに、俺には相談すべきベストな相手がこいつしか見当たらなかった。
「避けられてる。雨宮さんに」
思い切って相談する。
「そうなんだ。ケンカした?」
「してない」
「思い当たることはないの?」
「……ひとつだけは。
でも、それは話し合って解決したはずだし、そんなに大きいことでもなかったし」
「ふーん」
「今月のバイトのシフト、全部避けられてるんだぞ?
どう考えてもおかしいじゃん」
俺の切羽詰まった状況はちゃんと宏樹に伝わっているのだろうか。
「じゃあちょっと理絵に聞いてみてあげましょうかね」
宏樹が無敵アイテムのようにスマホを取り出し、彼女に連絡を取ってくれる。
多分松本さんはすべてを知っている。
宏樹が松本さんとメッセージをやり取りしているのを寝不足の顔でぼんやり眺めていたが、急にやつがスマホから顔を上げて驚いたように俺を見た。
「優雨、これ見て。
理絵、何か知ってるわ。
っていうか、オレ、とばっちり受けてるっぽくない?」
そう言って見せられたメッセージのやりとりは
『雨宮さんが優雨を避けてるみたいなんだけど、何か知ってる?』
『因果応報でしょ。
私は猛烈に望月さんと宏樹に怒りを感じている』
というものだった。
因果応報!?
俺、何をした?
「どうしたらいい?」
暗い顔で宏樹をすがるように見た。
「そんなの、知ってるやつに聞くしかないだろ」
さらに彼はタタタとメッセージを打って送信した。
ブブッ。
スマホが振動して返ってきたメッセージを宏樹が俺に見せてくる。
『何したら教えてくれる?』
『△△というお店のケーキを買ってきてくれたら教えてあげてもいい。
でも、話し合いの場所は望月さんの家で。
宏樹も一緒に来て』
「ケーキ何個買えばいいかなぁ?」
俺は途方に暮れた。
これ、めっちゃ怒られるやつだ。
数日後。
午後から雨が降っていた。
松本さんに指定されたお店のケーキは、ロースイーツという小麦粉や砂糖を一切使用しないで加熱せずに作られる、ダイエットにも適した体にやさしいスイーツというものらしい。
東京のお店まで行き、悩んだ結果、人数の倍である6個分を買っておく。
松本さんが全部食べるかどうか分からないが、足りなくなるよりは余るほうがいい。
俺と宏樹は授業を含めたすべての用事をサボったり別日に再調整したりして、夕方に俺の家で3人で向かい合った。
俺の父と母は二人とも今日は夜遅くまで仕事だから、途中で邪魔者は入らない。
松本さんの笑顔がとにかく怖い。
「まずはスイーツ食べたい。
望月さん、私、紅茶がいいです」
「かしこまりました。
しばらくお待ちください」
思わずバイト中の営業スマイルと接客態度で彼女に対応する。
松本さんはロースイーツを3個食べた後、俺に対してたずねた。
「さあ本題に入りましょう。
望月さんは、思い当たることないんですか」
これは質問ではない。
思い当たることが必ずあるだろう、お前の認識は何なのか挙げてみよという命令だ。
「そうだね、名前のことかな。
雨宮さんに、下の名前を呼び捨てで呼んでほしいと言われたけど、呼べなくて。
なぜ呼んでくれないのかって言われてしまったことだと思う」
彼女の目が鋭く光った。
当たったか……?
「そうなんだ……。
あのとき香世ちゃん、二重の意味でショックだったのか……」
松本さんがひとりでブツブツつぶやいている。
「もちろん、それも原因です。
ですが!」
バーン!
急に彼女が立ち上がり、テーブルを両手で思い切り叩いた。
身体がびくりと揺れて、小刻みに震えてきてしまう。
実の父を思い出していた。
二人に気づかれないようにそっと両腕を押さえる。
「望月さん、あの『ひなみ』って女、あなたにとってどういう存在なんですか?」
ひなみ……?
佐藤日菜実のことか?
「あれ、なんで理絵が日菜実のこと知ってんの?」
他人事で質問した宏樹が、彼女の眼光にすぐさま制圧される。
「こないだ、香世ちゃんとあなたたちの大学に行ったんです。
二人に内緒のサプライズで会いに行こうって。
そしたらひなみさんが望月さんの腕に抱きついてて。
周りが冷やかしてるのに、二人は訂正しないし、望月さんは自分に彼女がいることを言わないし。
さらに、望月さんは香世ちゃんのことを名前で呼ばないのに、ひなみさんのことは呼び捨てで呼んでるし。
これで分かりましたか?」
頭を抱えた。
彼女はなおも続ける。
「香世ちゃん、熱が出て学校で倒れたときにも言ってたんです。
『望月さんに、好きって言ってもらえない』って。
そのことにも思い当たることはないんですか?
きっとありますよね?
香世ちゃんはずっとずっと苦しみながら悩んでSOSを出してたのに、望月さん、あなたという人は、これまで一体何をしてたんですか!」
松本さんは無意識だと思うが、徐々に声を大きくしながら俺を糾弾した。
その姿に実の父が重なる。
目眩がした。
「最近の彼女はね、葉山君と一緒にいますよ。
望月さんには、花火大会の日に会った男の子って言ったら分かりますよね?」
瞬時に思い出す。
俺に挑むような目線を投げてきたアイツか。
「今回は教えてあげました。
でも!」
バーン!
また机を叩く。
俺の身体が跳ねる。
「二度目はないし、次は『今すぐ香世ちゃんと別れろ』ってメッセージを望月さんに送り続けてやりますから。
そして、葉山君と香世ちゃんが付き合うように、私にできうる限りのお膳立てをするつもりです。
正直私は、今でも葉山君の方が香世ちゃんを幸せにできると思ってます。
香世ちゃんを傷つけるやつは誰であっても絶対に私が許さない。
それじゃあ、帰ります」
憤りながら俺に宣戦布告して玄関に向かう彼女を、慌てて宏樹が追いかけていく。
残された俺は、白旗を掲げるかのように、リビングのソファに倒れ込む。
母に確認したいことがたくさんあり、その中でどうしても急いで連絡したい人がいた。
数日後。
授業が終わって学部棟を出たら
「望月さん?」
制服姿の男子高校生に声をかけられた。
「君は……」
自分の表情がみるみる険しくなるのを感じる。
「お久しぶりです。
花火大会の日に会いましたよね」
松本さんの言っていた葉山君がそこにいた。
彼は単刀直入に告げる。
「かよちゃんを傷つけるの、もうやめてもらえませんか?
本気で彼女のことを好きじゃないのなら、早く別れてください」
カチンとくる。
「君には関係ないだろ」
自分で言いながら、ああ、これ、ドラマとかで聞く負け台詞じゃん、なんて考えていた。
「関係ありますよ。
僕はかよちゃんのこと好きなんで。
あなたが彼女にしてきたこと、僕は全部知ってますから」
ギロリと睨むことしかできない。
彼は続ける。
「だから僕は、毎日かよちゃんに『好きだよ』って最低一回は伝えてますし、『やせたらだめだよ、服装も見た目もそのままのかよちゃんが好きだよ』って伝えてます。
それに、毎日たくさん彼女の名前を呼んでます。
彼女がしてほしくてもあなたがしてこなかったこと、全部」
言葉を返せない。
俺が頑張ってもできなかったことを彼は息をするようにできている。
「そうそう、僕がかよちゃんにキスしようとして顔を近づけたら、彼女、拒絶も抵抗もせずに目を閉じてくれたんですよ。
惜しかったなぁ。
あのとき土砂災害の緊急速報が鳴らなかったら、キスしてたのに」
優越感に浸っているかのように彼が語るのを、俺は嫉妬で気が狂いそうになりながら聞くことしかできない。
緊急速報と聞いて、いつのことなのか推測しようとする。
……俺が宏樹と一緒に松本さんに怒られた日のことか!
なんで……なんで、こんなやつに俺が負けないといけないんだ。
「僕から聞いたことを彼女に直接ぶつけて、彼女に思いっきり嫌われたらいいですよ。
とにかく、今日は宣戦布告をしに来ただけですから。
僕は彼女をこれからもずっと好きだし、どんなにあなたと付き合っていたとしても、友達としてそばにいながら、さりげなくアプローチし続けます。
だって、結婚しているわけじゃないんでしょう?
結婚していないのなら、僕にも可能性は無限にあるじゃないですか。
僕はあなたに負けてるなんて一ミリも思っていませんから」
余裕のある笑みを俺に向け、彼は颯爽と帰っていった。
くっそー!!
大声で叫びたかったが、葉山君に負け犬の遠吠えを聞かせるようなことは避けたくて、ギリギリのところで思いとどまる。
自分が般若のような顔つきをしている自覚があった。
何としても雨宮さんと仲直りする。
葉山君には絶対に負けたくない。
そのために必要なことは何でもやってやる。
俺は、誰にも言っていなかった自分のすべてを彼女に打ち明ける強い決意を固めた。
そのことに気づいたきっかけは、彼女からのメッセージの返信が急によそよそしくなったことだった。
いや、違うな。
付き合う前のメッセージのやり取りに戻っただけというか。
自分で考えついてぞっとした。
確信したのは、バイトで同じ曜日に入っていたシフトに、その月の残りすべてを彼女の友人である松本さんが交代で入ったからだった。
メッセージでたずねてみるけど、のらりくらりとかわされてしまう。
「どうしよう……」
俺は大教室で朝から机に突っ伏して悩んでいた。
「優雨、おはよ」
宏樹が満面の笑みを浮かべて挨拶してくるのが腹立たしい。
こいつは最近、彼女とお揃いのペアリングなんかつけて浮足立っている。
その宏樹の彼女というのが、俺の彼女の代わりにシフトの交代で入った松本さんなのである。
「どうした?」
俺が挨拶を返さなかったので、気遣ってくれたのはありがたかったけど、どうしてもイラつきを抑えられない。
しかし。
悲しいことに、俺には相談すべきベストな相手がこいつしか見当たらなかった。
「避けられてる。雨宮さんに」
思い切って相談する。
「そうなんだ。ケンカした?」
「してない」
「思い当たることはないの?」
「……ひとつだけは。
でも、それは話し合って解決したはずだし、そんなに大きいことでもなかったし」
「ふーん」
「今月のバイトのシフト、全部避けられてるんだぞ?
どう考えてもおかしいじゃん」
俺の切羽詰まった状況はちゃんと宏樹に伝わっているのだろうか。
「じゃあちょっと理絵に聞いてみてあげましょうかね」
宏樹が無敵アイテムのようにスマホを取り出し、彼女に連絡を取ってくれる。
多分松本さんはすべてを知っている。
宏樹が松本さんとメッセージをやり取りしているのを寝不足の顔でぼんやり眺めていたが、急にやつがスマホから顔を上げて驚いたように俺を見た。
「優雨、これ見て。
理絵、何か知ってるわ。
っていうか、オレ、とばっちり受けてるっぽくない?」
そう言って見せられたメッセージのやりとりは
『雨宮さんが優雨を避けてるみたいなんだけど、何か知ってる?』
『因果応報でしょ。
私は猛烈に望月さんと宏樹に怒りを感じている』
というものだった。
因果応報!?
俺、何をした?
「どうしたらいい?」
暗い顔で宏樹をすがるように見た。
「そんなの、知ってるやつに聞くしかないだろ」
さらに彼はタタタとメッセージを打って送信した。
ブブッ。
スマホが振動して返ってきたメッセージを宏樹が俺に見せてくる。
『何したら教えてくれる?』
『△△というお店のケーキを買ってきてくれたら教えてあげてもいい。
でも、話し合いの場所は望月さんの家で。
宏樹も一緒に来て』
「ケーキ何個買えばいいかなぁ?」
俺は途方に暮れた。
これ、めっちゃ怒られるやつだ。
数日後。
午後から雨が降っていた。
松本さんに指定されたお店のケーキは、ロースイーツという小麦粉や砂糖を一切使用しないで加熱せずに作られる、ダイエットにも適した体にやさしいスイーツというものらしい。
東京のお店まで行き、悩んだ結果、人数の倍である6個分を買っておく。
松本さんが全部食べるかどうか分からないが、足りなくなるよりは余るほうがいい。
俺と宏樹は授業を含めたすべての用事をサボったり別日に再調整したりして、夕方に俺の家で3人で向かい合った。
俺の父と母は二人とも今日は夜遅くまで仕事だから、途中で邪魔者は入らない。
松本さんの笑顔がとにかく怖い。
「まずはスイーツ食べたい。
望月さん、私、紅茶がいいです」
「かしこまりました。
しばらくお待ちください」
思わずバイト中の営業スマイルと接客態度で彼女に対応する。
松本さんはロースイーツを3個食べた後、俺に対してたずねた。
「さあ本題に入りましょう。
望月さんは、思い当たることないんですか」
これは質問ではない。
思い当たることが必ずあるだろう、お前の認識は何なのか挙げてみよという命令だ。
「そうだね、名前のことかな。
雨宮さんに、下の名前を呼び捨てで呼んでほしいと言われたけど、呼べなくて。
なぜ呼んでくれないのかって言われてしまったことだと思う」
彼女の目が鋭く光った。
当たったか……?
「そうなんだ……。
あのとき香世ちゃん、二重の意味でショックだったのか……」
松本さんがひとりでブツブツつぶやいている。
「もちろん、それも原因です。
ですが!」
バーン!
急に彼女が立ち上がり、テーブルを両手で思い切り叩いた。
身体がびくりと揺れて、小刻みに震えてきてしまう。
実の父を思い出していた。
二人に気づかれないようにそっと両腕を押さえる。
「望月さん、あの『ひなみ』って女、あなたにとってどういう存在なんですか?」
ひなみ……?
佐藤日菜実のことか?
「あれ、なんで理絵が日菜実のこと知ってんの?」
他人事で質問した宏樹が、彼女の眼光にすぐさま制圧される。
「こないだ、香世ちゃんとあなたたちの大学に行ったんです。
二人に内緒のサプライズで会いに行こうって。
そしたらひなみさんが望月さんの腕に抱きついてて。
周りが冷やかしてるのに、二人は訂正しないし、望月さんは自分に彼女がいることを言わないし。
さらに、望月さんは香世ちゃんのことを名前で呼ばないのに、ひなみさんのことは呼び捨てで呼んでるし。
これで分かりましたか?」
頭を抱えた。
彼女はなおも続ける。
「香世ちゃん、熱が出て学校で倒れたときにも言ってたんです。
『望月さんに、好きって言ってもらえない』って。
そのことにも思い当たることはないんですか?
きっとありますよね?
香世ちゃんはずっとずっと苦しみながら悩んでSOSを出してたのに、望月さん、あなたという人は、これまで一体何をしてたんですか!」
松本さんは無意識だと思うが、徐々に声を大きくしながら俺を糾弾した。
その姿に実の父が重なる。
目眩がした。
「最近の彼女はね、葉山君と一緒にいますよ。
望月さんには、花火大会の日に会った男の子って言ったら分かりますよね?」
瞬時に思い出す。
俺に挑むような目線を投げてきたアイツか。
「今回は教えてあげました。
でも!」
バーン!
また机を叩く。
俺の身体が跳ねる。
「二度目はないし、次は『今すぐ香世ちゃんと別れろ』ってメッセージを望月さんに送り続けてやりますから。
そして、葉山君と香世ちゃんが付き合うように、私にできうる限りのお膳立てをするつもりです。
正直私は、今でも葉山君の方が香世ちゃんを幸せにできると思ってます。
香世ちゃんを傷つけるやつは誰であっても絶対に私が許さない。
それじゃあ、帰ります」
憤りながら俺に宣戦布告して玄関に向かう彼女を、慌てて宏樹が追いかけていく。
残された俺は、白旗を掲げるかのように、リビングのソファに倒れ込む。
母に確認したいことがたくさんあり、その中でどうしても急いで連絡したい人がいた。
数日後。
授業が終わって学部棟を出たら
「望月さん?」
制服姿の男子高校生に声をかけられた。
「君は……」
自分の表情がみるみる険しくなるのを感じる。
「お久しぶりです。
花火大会の日に会いましたよね」
松本さんの言っていた葉山君がそこにいた。
彼は単刀直入に告げる。
「かよちゃんを傷つけるの、もうやめてもらえませんか?
本気で彼女のことを好きじゃないのなら、早く別れてください」
カチンとくる。
「君には関係ないだろ」
自分で言いながら、ああ、これ、ドラマとかで聞く負け台詞じゃん、なんて考えていた。
「関係ありますよ。
僕はかよちゃんのこと好きなんで。
あなたが彼女にしてきたこと、僕は全部知ってますから」
ギロリと睨むことしかできない。
彼は続ける。
「だから僕は、毎日かよちゃんに『好きだよ』って最低一回は伝えてますし、『やせたらだめだよ、服装も見た目もそのままのかよちゃんが好きだよ』って伝えてます。
それに、毎日たくさん彼女の名前を呼んでます。
彼女がしてほしくてもあなたがしてこなかったこと、全部」
言葉を返せない。
俺が頑張ってもできなかったことを彼は息をするようにできている。
「そうそう、僕がかよちゃんにキスしようとして顔を近づけたら、彼女、拒絶も抵抗もせずに目を閉じてくれたんですよ。
惜しかったなぁ。
あのとき土砂災害の緊急速報が鳴らなかったら、キスしてたのに」
優越感に浸っているかのように彼が語るのを、俺は嫉妬で気が狂いそうになりながら聞くことしかできない。
緊急速報と聞いて、いつのことなのか推測しようとする。
……俺が宏樹と一緒に松本さんに怒られた日のことか!
なんで……なんで、こんなやつに俺が負けないといけないんだ。
「僕から聞いたことを彼女に直接ぶつけて、彼女に思いっきり嫌われたらいいですよ。
とにかく、今日は宣戦布告をしに来ただけですから。
僕は彼女をこれからもずっと好きだし、どんなにあなたと付き合っていたとしても、友達としてそばにいながら、さりげなくアプローチし続けます。
だって、結婚しているわけじゃないんでしょう?
結婚していないのなら、僕にも可能性は無限にあるじゃないですか。
僕はあなたに負けてるなんて一ミリも思っていませんから」
余裕のある笑みを俺に向け、彼は颯爽と帰っていった。
くっそー!!
大声で叫びたかったが、葉山君に負け犬の遠吠えを聞かせるようなことは避けたくて、ギリギリのところで思いとどまる。
自分が般若のような顔つきをしている自覚があった。
何としても雨宮さんと仲直りする。
葉山君には絶対に負けたくない。
そのために必要なことは何でもやってやる。
俺は、誰にも言っていなかった自分のすべてを彼女に打ち明ける強い決意を固めた。