女優の雨宮華夜子は二十代の女優の中で最も人気があって売れていると思う。
世間は親しみを込めて彼女のことを「あまかよ」と呼んでいる。
彼女から発せられる、誰からも愛され、他の人の追随をまったく許さないようなまばゆいオーラが、私にはひどく重くて、いつどの瞬間においても、息苦しくてたまらない。
それは私の身体についている脂肪のせいでは、きっとない。
彼女を見ない日は一日もなく、どこへ行っても彼女は私の行き先にいる。
もうそのこと自体に疑問を持つことがむしろおかしいのだろうなと、最近は思い始めた。
彼女の存在感が大きすぎる。
対して私は、その事実を一国民としてただ受け入れ、認めることしかできないちっぽけな存在だ。
彼女のことを考えていると、私の周りにいる人たちが、なぜ私の名前が彼女と同性同名ということだけでこんなに騒ぎ立てるのか理解できなくなってくる。
家族も私が彼女と同性同名だということに関心があるようだった。
以前、テレビを一緒に見ていた母がつぶやいた。
「最近テレビによく出ているこの女優さん、香世ちゃんと同性同名なのね」
「私の名前、どうして『香世子』って名前にしたんだっけ?」
そのときに、小さいころ何度も聞いたような質問をしてみた。
「姓名判断でみてもらって決めたの」
「そうだった」
淡い期待をさくっと裏切られてはがっかりする、その繰り返しだったことを思い出す。
もっと昔、さらに突っ込んで聞いてみたこともあったけど、これ以上の名前の由来は存在しなかった。
その後、いわゆるキラキラネームを裁判所の手続きで変更した人のドキュメンタリー映像を見たとき、「私も名前変えたいな」と、つい口にしてしまったことがある。
無言でぽろぽろ泣き出した母の顔が忘れられない。
名前を変えられないなら自分の体型を変えるしかないと、母に対する罪悪感から始めるダイエットは、何度試しても途中で苦しくなって毎回失敗してしまう。
自室に戻り、暗い部屋の中、少しだけカーテンを開けて窓の外を見上げた。
雲ひとつない空に浮かんでいる満月が、強くすっきりとした光で私を照らしてくれる。
今日起きた出来事を、現在から過去へ時間軸を辿って反芻する。
望月さんと別れる前に感じた小さな棘のような感情は、ネガティブな私の中でいつも生成されているものなので、そんなに気にしてはいなかった。
それよりも、清く正しい望月さんの存在が、彼女と比較され続けるしかない暗闇の中で小さな希望の光のように感じた。
この世界にあんな人がいるなんて想像すらできなかった。
もしかすると、今住んでいる場所から別の場所に行けばもっと出会えるのかもしれない。
でも、高校生の今の私にそんな場所で生活するという選択肢は与えられていない。
だからこそ、荒んでひねくれてしまった私には、望月さんみたいな人にこの場所で出会えたという事実だけで救われる思いがしたのだ。
こんな風に嬉しさが身体中に染みわたる感覚を今日だけで味わい尽くすのはもったいなくて、満ち足りた心を宝箱にしまい、明日の予習をするために机の上のスタンドライトを点けた。
世間は親しみを込めて彼女のことを「あまかよ」と呼んでいる。
彼女から発せられる、誰からも愛され、他の人の追随をまったく許さないようなまばゆいオーラが、私にはひどく重くて、いつどの瞬間においても、息苦しくてたまらない。
それは私の身体についている脂肪のせいでは、きっとない。
彼女を見ない日は一日もなく、どこへ行っても彼女は私の行き先にいる。
もうそのこと自体に疑問を持つことがむしろおかしいのだろうなと、最近は思い始めた。
彼女の存在感が大きすぎる。
対して私は、その事実を一国民としてただ受け入れ、認めることしかできないちっぽけな存在だ。
彼女のことを考えていると、私の周りにいる人たちが、なぜ私の名前が彼女と同性同名ということだけでこんなに騒ぎ立てるのか理解できなくなってくる。
家族も私が彼女と同性同名だということに関心があるようだった。
以前、テレビを一緒に見ていた母がつぶやいた。
「最近テレビによく出ているこの女優さん、香世ちゃんと同性同名なのね」
「私の名前、どうして『香世子』って名前にしたんだっけ?」
そのときに、小さいころ何度も聞いたような質問をしてみた。
「姓名判断でみてもらって決めたの」
「そうだった」
淡い期待をさくっと裏切られてはがっかりする、その繰り返しだったことを思い出す。
もっと昔、さらに突っ込んで聞いてみたこともあったけど、これ以上の名前の由来は存在しなかった。
その後、いわゆるキラキラネームを裁判所の手続きで変更した人のドキュメンタリー映像を見たとき、「私も名前変えたいな」と、つい口にしてしまったことがある。
無言でぽろぽろ泣き出した母の顔が忘れられない。
名前を変えられないなら自分の体型を変えるしかないと、母に対する罪悪感から始めるダイエットは、何度試しても途中で苦しくなって毎回失敗してしまう。
自室に戻り、暗い部屋の中、少しだけカーテンを開けて窓の外を見上げた。
雲ひとつない空に浮かんでいる満月が、強くすっきりとした光で私を照らしてくれる。
今日起きた出来事を、現在から過去へ時間軸を辿って反芻する。
望月さんと別れる前に感じた小さな棘のような感情は、ネガティブな私の中でいつも生成されているものなので、そんなに気にしてはいなかった。
それよりも、清く正しい望月さんの存在が、彼女と比較され続けるしかない暗闇の中で小さな希望の光のように感じた。
この世界にあんな人がいるなんて想像すらできなかった。
もしかすると、今住んでいる場所から別の場所に行けばもっと出会えるのかもしれない。
でも、高校生の今の私にそんな場所で生活するという選択肢は与えられていない。
だからこそ、荒んでひねくれてしまった私には、望月さんみたいな人にこの場所で出会えたという事実だけで救われる思いがしたのだ。
こんな風に嬉しさが身体中に染みわたる感覚を今日だけで味わい尽くすのはもったいなくて、満ち足りた心を宝箱にしまい、明日の予習をするために机の上のスタンドライトを点けた。