朔の体調は日を追う事に快方に向かい、食欲も普段通り、体力を戻していった。

「どうだろうか……///?」
「…………///」
 澄桜は口を隠し、顔を背けた。頬は薄く色付いている。
「何か言ったどうだ。」
「いや……その、あまりに綺麗で……皆の前に出したくないな……と。」
「な、///そういう恥ずかしいことをそうぬけぬけと言えるのだ///!」
「言えって言ったのは朔だろう……?」
 薫子は隅で涙を浮かべていた。
「か、薫子……!」
「姫様が……こんなにご立派になられて……薫子……本当に嬉しゅうございます……」
「それではもうお別れみたいではないか。一生供してくれるのではないのか?」
「っ……!しますとも……!薫子、この身をもって朔様のお側でお仕えいたします。」
 月華宮の桜が満開で、二人を迎えた。
「本当に、綺麗だな。俺には勿体ないくらいに。」
「うるさい。恥ずかしくなるからやめろ。」
「あはは!だって本当なのだから仕方ないだろう?……愛してるよ、朔。」
「はぁっ///!!!」
 今までにないほど大きな声を出し、林檎か苺かそれほど赤く顔を染めた。
「そんな……面と向かって言われても……///」
「朔は俺のこと愛してないのか?」
「うっ……そういう訳じゃ……」
「ん?」
 言わざるを得ない雰囲気になってしまった。会場には帝をはじめ、兄弟は疎か母親もいた。それは雪平氏も同じで、唯一萩玄のみいない。こんな大勢の中で言うなんて、恥ずかしいに決まっている。
「……愛してる…………///」
「聞こえないな。」
「愛してると言っておろう///!」
「ふふっ!ありがとう、朔。」
 照れる朔に口付けした。

 その夜、朔は眠れずに縁側で空を見ていた。
「朔?寝れないのか?」
「澄桜……あぁ、今日が終わってしまうのが寂しくてな。」
 澄桜は朔に自分の上着を掛け、隣に座った。
「これで妾も雪平だな。仮初の三葉の姓もさらばだな。」
 原則的に皇族は姓を持たない。朔の三葉という姓も清和が離宮に移る際に仮の姓として付けたのだ。
「雪平朔、か。なんだか違和感があるな。」
「っぅ〜〜///」
「照れるな。これからずっとそうなのだから。」
「けれど……そうなればいいなと望んでいたから。いざとなると照れるな。嬉しいような、気恥ずかしいような。」
「もしかしてお前、『旦那様』とでも呼ばれたかった(たち)か。」
「ふぁっっ///!!」
 図星か、と妙に納得する。流石の朔も呆れ顔だ。
「こう長く居ても、初めて見る面があるものだな。」
「それは俺もだよ。可愛らしく小指に赤い糸なんて結んで、俺を待ってたなんてさ。」
 人差し指で朔の頬を突いてみる。
「薫子、あやつ……///」
「寂しがり屋はどっちだろうな。」
「……どっちかでは無い。どちらも寂しがり屋なのだ。」
「そうだね。……あ、今日望月だ。」
 月に霧がかかって、綿のように柔らかくほのかに霞んでいる。
「朧月だな。これは珍しい。」
「まるで貴女のようだ、朧姫。」
「なんだ?霞んで消えてしまえ、と?」
「違う。珍しいものほど美しい、ということ。」
 身を寄せ合い、朔は澄桜の肩に頭を乗せた。

『ねぇ、朔!見て!望月だ!でも、少し霞んでる……?』
『なんでだろう?』
『分からない……でも、すごく綺麗だね、朔。』
『うん……月が綺麗だ……』