「朔、大丈夫か?」
「あぁ……すまない……準備も……しなくては……いけないのに……」
「気にしないで。朔は自分の体だけ心配して?」
「ありがとう……澄桜……」
 婚礼を春に控えているにも関わらず、朔が流行病で著しく体調を崩してしまった。高い熱を出し、食欲もなく、ただ寝込むだけ。外は強く吹雪き刺すような寒さが目立つ。
「粥を持ってきたよ。少しだけでも食べて?起き上がれる?」
「よい……そこにおいて……澄桜は……出ろ……移してしまう……」
 朔なりの優しさだった。
「朔にだったらそれも本望だ。まぁ、流行病くらい移らないけれど。ほら、食べて?」
「……澄桜…………」
 病に倒れ、心細くなることくらい澄桜も知っている。いくら彼女がそう慣れていようとそばにいたい、と思うのは当然だった。
 一匙(ひとさじ)口に運ぶとゆっくり咀嚼して飲み込んだ。
「食べられそう?」
「……あぁ……食える……」
 少しばかり食欲も出てきたようだ。一〇口ほど食べて、また眠りについた。その夜も高熱に魘されていた。澄桜は布を口に当てたまま隣で眠った。

 昨夜までの吹雪はどこか、心地よいほど清く晴れていた。柔らかい日差しに澄桜は目覚めた。体調は良好。流石に長年兵士の中にいると流行病程度慣れるものだな、としみじみ思う。
 隣に寝る朔に目をやった。静かな眠り様だった。心地よさそうに寝てるようにも見える。ただ、昨夜まで魘されていたのだ。
「朔……?朔、朔……?」
 頬は昨日まで赤さはなく、疑うほど白く触れると指先から冷たさが伝わった。実に綺麗な死に様にも見えるのだ。
「朔……!朔、おい、朔!起きろ!」
「………………んっ……朝から……うるさいぞ……」
 澄桜は自分の頬を思いっきり引っ張った。頬に広がる熱と痛み、夢ではない。肩を撫で下ろした。
「……良かった……熱が下がったんだな。」
「死んだとでも……思ったのか……?やはりお前は……寂しがり屋だな……」
 軽口を叩き笑みを見せる気力が見られた。
「あまりに静かに眠るから……でも、ほんと……良かった。」
「お前の看病の賜物だな。ありがとう、澄桜。助かった。」
「いや。寧ろこれくらいさせて欲しい。朔、今日は暖かいね。」
「な、///あぁ、暖かい。」