季節が移ろい、夏になると澄桜も大分回復していた。残念ながら体中の傷は消えず、右目は失明という結果だったが、生きているだけで良いのだ。そう朔は思っていた。
「朔様、来ましたよ。」
「だから、軽口で良いと何度言っておる。」
「あはは……なかなか癖が抜けなくてな。」
 この三月(みつき)の中で一つ変化があった。なんと雪平氏の跡継ぎを萩玄から澄桜に変えたのだ。何も、萩玄の朔への無礼が当主の耳に入ったらしい。
「澄桜、お前勉学は大丈夫なのか?」
「あぁ、今まで全然やってなかった訳じゃないから。朔は心配しないで。それよりそんなに起きてて大丈夫?」
「平気だ。妾とてもう一七ぞ。昔ほど寝込みはせぬ。」
「良かった。」
 澄桜は優しく朔の頭を撫でる。二人は二つほど歳が離れていて、澄桜の方が上だ。
「澄桜にその耳飾りは似合わぬな。」
「帝が貴女のために作られたんだ。俺に似合うわけないだろう。でも、朔?耳飾りを贈る意味って知ってるか?」
「知らぬ。」
 耳を貸すように呼ぶ澄桜。
「……貴方のそばに居たい。」
「っ///!そんなこと思って贈った訳でないわ!」
 照れ隠しに澄桜の背中を叩く。
「まぁ朔のことだからね……簪は知ってる……?」
「……知っておる…………///」
 どうやら朔は照れ屋のようだ。すぐに頬を林檎のように丸く赤くし、そっぽ向いてしまう。
「お前はいつから妾を慕っておる?」
「そんなの……出会ってからずっとだ。一目惚れだったんだから。でも……同時に諦めてもいたよ。」
「妾が萩玄と結婚する未来がお前には見えていたんだな。」
 澄桜は何処か悲しげな眼差しを朔に向けた。そっと細くか弱い体を抱き寄せた。
「急にどうした……?」
「いや……何となく……寂しくなったんだ。」
「お前は昔から寂しがり屋だな。安心しろ。もうお前の隣には朔がおる。一人ではないぞ。」
「あぁ……ありがとう、朔。」
 
 しばらくして薫子が様子を見に来た時には二人で寄り添って昼寝していたという。

 その夏のうちに二人の縁談が持ち上がり即決した。婚礼は二人の希望で、桜の咲く春にした。