――その二日後、臨時株主総会で新会長を決める決選投票が行われ、わたしは大叔父に大差をつけて無事会長就任が決まった。

「――桐島さん! わたし、新会長に決まったよ」

『本当ですか? おめでとうございます! では、僕の会長秘書拝命も無事に決まったということですね』

 帰りのクルマの中で貢に電話をかけると、彼はわたしの会長就任を心から喜んでくれた。

「うん。明後日にも人事部から正式な辞令が下りると思う。というわけで改めて、これからよろしくお願いします」

 わたしはそこから自分が行ったスピーチの内容や、社長であり本部の役員でもある村上さんの応援演説がいかに素晴らしかったかを彼に話した。そして、株主総会前の二日間で練りに練った、本社幹部の人事についても。
 社長は村上さん留任で、常務は秘書室長の広田(ひろた)妙子(たえこ)さん、専務は人事部長の山崎(やまざき)(おさむ)さんがそれぞれ兼任してもらうことにした。三人とも父のよき理解者で、協力者でもあった人たちで、わたしにとっても強い味方になってくれることは間違いないと思ったのだ。

『そうですか、社長が味方について下さったのは大きかったですね。村上社長は確か、お父さまの同期組でしたよね。営業部でいいライバルだったとか』

「そうなの。彼を社長に任命したのもパパだったんだって。若い頃はどっちがママのハートを射止められるか争ってたらしいよ」

『へぇ……、そんなことが』

 電話口にそんな話をしていたら、隣に座っていた母に「その話はもう時効だから、あんまり続けないで」と苦笑いされた。

『それはともかく、明後日は朝十時から就任会見が開かれるんですね。スピーチの原稿は用意しておいた方がよろしいですか?』

 彼はさっそく秘書の業務として、そんな提案をしてくれた。わたし自身会見なんて初めてのことだったので、それはとてもありがたい提案だと思った。

「そうだなぁ、わたしとしてはあった方が気持ち的に助かるけど。大まかな内容で作っておいてくれたら、あとは自分で考えて話すから」

『かしこまりました。では、簡単な内容の原稿だけ、僕の方で作成しておきます』

「ありがと。じゃあよろしく」


 ――何はともあれ、母が会長代行、貢が秘書、そして強力な首脳陣という万全な体制で、この二日後にわたしのトップレディ生活は幕を開けることとなった。