「やっと聞いてくれた? 俺がいつから香村の事が大好きかって」
 そう言った廣川七瀬(ひろかわななせ)は夕陽を背に楽し気に笑った。茜色の夕陽は明るい色の彼の髪を透かしてきて、表情は逆光となっているものの笑っているのはわかる。そも、記憶の中にある廣川という男はいつだって笑っているような気がする。
「じゃあ、当ててみてよ。俺がいつから香村の事が好きなのか」
「……え、じゃあって何」
「そこまで気になるなら? 教えてあげなくもない、って感じ?」
「いや、そこまでってわけでは」
 嘘だ、気になる。
 香村健臣(こうむらたけおみ)は自分自身を平々凡々などこにでもいる高校二年生だと思っている。実際のところ中学生時代からあらゆる教科のテストで学年三位内を取り続けている男が平凡なわけがないのだが、それは香村を客観的に見ての印象であり香村自身の自己評価は平均して低めに設定されていた。
「えー気になってよ俺のこと」
 彼の腕が伸びて来て香村の手を取る。思いのほか熱く、少し汗ばんでいて香村は驚いた。
 気になって、なんて言われなくとも香村にとって廣川という男はやけに気になる男ではあるのだ。彼が声高に香村への好意を伝えてくるようになったのは確か二年生へ進学し同じクラスになった頃で、それまではクラスも違えば中学も違った為接点らしい接点は無かった筈だ。
「もっと俺のこと意識してね」
 そう言ってのける廣川はやはり策士なのだろうと、香村は思った。