僕は夏が大好きだった。
うるさい蝉と容赦なく照りつける日差し。
虫取り網とカゴを手に、裏山まで駆け抜けたあの頃。

涼太(りょうた)、早く来いよ!」

サイズの合わない麦わら帽子の下からは、太陽よりも輝く笑顔があった。それに導かれるように、僕は彼に手を伸ばす。

「ま、待ってよ京ちゃん!!」

いつも必死だった。
置いていかれないように、見失わないように。目の前を走るその姿は、まるで風のように遠くへ行ってしまいそうで。

「あ!!」

足がもつれて転んだ。掛けていたメガネが地面に落ちる。
痛くて情けなくて、俺はうるうると目に涙をためた。

「涼太は相変わらず鈍臭いな〜。ほら、早く立てよ」

差し出された手は大人よりも遥かに小さい。けれど不思議と安心感があって、僕は大好きだった。
京ちゃんと一緒ならなんでも出来る。どこにでも行ける。なんだか自分まで強くなったような気がした。

「涼太、俺たちはずっと一緒だぞ」
「うん!僕も京ちゃんと一緒にいたい!!」

この時は信じてそう疑わなかった。
これからも変わらず、僕らは2人で一緒なのだと……