四十日間の夏休み。七月はひたすら学校から出された課題に追われ、気づけばお盆になった。
午前中に家族で墓の掃除をしに行って、色んな親戚たちが一同に集まり、それぞれからたんまり小遣いをもらった午後。俺はナスとキュウリで作られた精霊馬が飾られた縁側で、溶けていた。
親とばあちゃんは親戚たちと毎年恒例のうどんを食いに行ったが、俺は留守番を選んだ。
どうせ親父たちは瓶ビールを開け始めると陽気になってうるさいし、母さんとばあちゃん+親戚の女性たちの話にもついていけないからだ。
――清太は、やっぱり女の子のほうがいいの?
あれから、三嶋には会ってない。
夏休み中何回か店番に立った【にわとり】にも来ないし、連絡先を知らないので、なにをしているのかもわからない。
夏休みが明ければ、どうせ学校で会える。なのに、なんでこんなにも俺は、あいつのことばっか考えているんだろうか。
「文子さーん!」
その時、庭のほうから声がした。大の字で寝転んでいた体を起こすと、栗原のばあちゃんがいた。
「ばあちゃんなら、うどん食いに行ってますよ」
「あらあら、清太くん」
「なんか用事でした?」
「冷や汁を作りすぎちゃったから、もらってもらおうと思って持ってきたのよ」
「あーじゃあ、預かります。冷蔵庫入れたほうがいいっすか?」
「ええ、お願いね」
栗原のばあちゃんから冷や汁が入った容器を受け取った。
「冷たい麦茶でも飲んでいきます?」
「ううん。この後、もう一軒ほかのお宅に行く予定があるから結構よ」
「栗原のばあちゃんちに、親戚は来ないの?」
「うちは明日来るみたい」
「……今年もみいちゃんは来ない感じですか?」
「え?」
「みいちゃんって、俺のことなんか言ってたりします?」
そんなことを今さら聞いたって、どうにもならないことはわかっている。だけど、なぜか『なんでもない』と言って悲しそうに帰っていった三嶋とみいちゃんの顔が重なって見えた。
だから、俺はまたなにかを間違えたのではいかと。彼女がここに帰ってこない理由が万が一俺にあったのだとしたら、謝りたいと思ったのだ。
「みいちゃんは、いつも清太くんの話ばかりしてるわよ」
「そ、そうなんですか?」
「あの子には言うなって言われてるんだけど、こっちの高校に通うことを周りからひどく反対されたらしいの。それでも勉強だけは続けるからお願いしますって親にも頭を下げたって言ってた。それだけ、清太くんに会いたかったのね」
「こっちの高校? え、誰の話っすか?」
「うちのみいちゃんの話でしょう?」
どういうわけか話が繋がらない。頭の中でハテナマークがいくつも浮かんでいた。
「え、みいちゃんって、俺と同じ高校!?」
「ええ、そうよ」
「みいちゃんの名前って――」
栗原のばあちゃんから名前を聞いた瞬間、俺は縁側に置いてあったサンダルを履いて、そのまま自転車に飛び乗った。