一学期が終わって、明日からは夏休み。終業式が終わった後、お疲れ会と称した集まりが【にわとり】で開かれていた。
「清太んちのばあちゃん、もう腰は大丈夫なんすか?」
「そう言うなら座ってないで手伝え、男子!」
わいわい、がやがや。店の奥にある四畳半ほどの小上がりの座敷には、鉄板付きのテーブルが置かれている。
じいちゃんが生きていた頃は、毎週火曜日だけもんじゃ焼きが食えるイベントをやっていたが、ここ最近はただの休憩所のスペースになっていた。
一学期の労いも込めて、今日は久しぶりにばあちゃんがもんじゃ焼きを作ってくれることもあり、こうしてクラスの半分もの生徒たちが集まったというわけだ。
「みんな、自分の好きな駄菓子を入れて楽しんでね」
ばあちゃんが微笑みながら、小麦粉とだし汁で作ったもんじゃ焼きのベースを運んできた。テーブルには各々が買ったベビースターやうまい棒などが並び、それぞれが自由にアレンジしている。
「ねえねえ、三嶋くんって東京出身なんでしょー? 元々どこに住んでたの?」
香ばしい匂いが立ち込める中、三嶋は数人の女子に囲まれていた。
他のクラスの三嶋に声をかけたのは俺だ。でも、気づけば三嶋の両隣には女子がひしめき合っていて、なかなか近づくことができない。
「……住んでたのは、練馬だよ」
「えー! 練馬ってすごーい!」
なにがすごいのかイマイチよくわからないが、ここぞとばかりに三嶋は質問責めにあっていた。
「なあ、清太って彼女いないよな? 俺の彼女の友達と繋がってみる?」
三嶋の様子をちらちらと伺っていたら、隣に座っている友達からそんなことを言われた。
「え、なんで俺?」
「だって、なかなか出会いないだろ。清太に彼女ができたら一緒にダブルデートできるじゃん」
「えー……」
「つか、もう話は通してあるから」
「は? なんで勝手に……」
「まあ、可愛い子だから大丈夫だって」
どうやら拒否権はないらしい。人並みには恋愛に興味があるし、周りにも彼女や彼氏がいる人は多くいる。
「まあ、繋がるくらいならいいけど」
そんなに乗り気ではなかったが、友達の顔を立てるつもりで返事をした。
ガシャンッ……!!
大きな音がしたと思えば、三嶋のコップが倒れていた。氷は散らばっているが、中身が空だったため服は無事だった。
「俺、用事を思い出したから帰るよ」
そう言うやいなや、三嶋は足早に店を出て行った。様子が気になり後を追うと、自転車の鍵を開けようとしているところだった。
「どうしたんだよ、急に」
「…………」
「なんかあるならちゃんと言えよ。後でみんなにも説明しておくし、いきなり帰ったら周りもびっくりする――」
「清太は、やっぱり女の子のほうがいいの?」
「え?」
射るような瞳で問われて、心臓がドキッとした。
なんだよ、その目。なんで、そんな目で俺のことを見るんだよ。
なにも答えられないでいると、三嶋は静かに自転車に跨がった。
「ごめん。なんでもないよ」
こんな時くらい蟬がうるさく鳴いていればいいのに、遠ざかっていく三嶋の自転車の音だけが、ひどく耳に残った。