「じゃんけんで勝ったら、本当にもらえるの?」

 青空が広がる夏の午後。じーわじーわと、蟬の声がけたたましく響いている小さな駄菓子屋・にわとり。色とりどりの駄菓子よりも存在感のある同級生は、なんの前触れもなくうちにやってきた。

「俺の声、聞こえてる?」

 一年三組の三嶋(みしま)琉生(るい)

 顔面偏差値がバカ高くて、女子からきゃーきゃー言われているやつ。モテているくせに愛想の欠片もなく、俺からすればちょっといけ好かないと感じていた男でもあった。

「え、あ、ああ、聞こえてる、聞こえてる」

「それで、本当にじゃんけんで勝ったらなんでも持っていっていいの?」

「もちろん。ただし一発勝負で、あいこも負けなんで」


 運試しのラッキーじゃんけん

 勝てば店のものひとつプレゼント!


 ばあちゃんが手書きしたチラシは、店の前だけじゃなく、俺がいるレジカウンターにも貼られている。

 片田舎にぽつんと佇む【にわとり】は、元々はじいちゃんが子どもたちのために開いた店だ。じいちゃんが死んでからも、ばあちゃんがその意思を引き継ぎ、今でもこのサービスを続けている。

「じゃあ、いきますよ。じゃんけんぽんっ」

 パーを出した三嶋に対して、俺はチョキを出した。優しいばあちゃんはわざと負けてあげることもあるみたいだけど、俺はそんなに甘くない。

「はい、残念。またどうぞ~」

 正直、昔からじゃんけんだけはめっぽう強くて、今まで負けたことがない。運がいいというより心理戦が得意で、相手の性格や雰囲気でなんとなく出す手がわかるのだ。

 三嶋は、パーを出したまま固まっていた。顔も勉強も負け知らずの三嶋琉生。どうだ、悔しいだろ、優等生。

「……また、来る」

 ぶっきらぼうに言い残して、三嶋は店から出ていった。

 ガシャンと自転車のストッパーを蹴る音がして、レジカウンターから様子を見に出ると、陽炎の中を猛スピードで帰っていく後ろ姿が見えた。

「なんだ、あれ」

 じーわ、じーわと、蟬の声がさらに激しく鳴り響く。

 学校一のモテ男は、どうやらじゃんけんだけをしに来たらしい。