「ざーっす」
 コンビニ店員の声を聞きながら、俺はひっそり胸をなで下ろす。良かった。ぎりぎりコンビニ支払いは間に合って、わたがし器は無事明日には届きそうだ。
 そのとき、自動ドアが開いて、チャラっとした集団が入ってきた。
 夜のコンビニはこれだから――さっさと帰ろうとして、聞こえてきた声に足が止まった。

「甲斐さあ、今日のあれなに?」

 反射的に奴らから見えない棚の陰に隠れる。
 甲斐たちは窓際のコーナーにたむろする。何人かは整髪料を見たりしてる中で、甲斐は表紙にどぎつい絵と文字の躍る雑誌を手に取っていた。えっちな漫画大好きだなおまえ。
 呆れていると、仲間たちのひとりがより粘っこく続きを発した。
「あの陰キャちゃんかばってんのー? 実は友だちだったとか?」

 あの、階段の出来事の話だ。
 クラスの中には、階級が存在する。
 カースト上位の奴らが、俺みたいな最下層陰キャをかばったりするのは、あってはならないことなのだ。
 学校生活とは、そういう暗黙の了解をいかにうまく読むかがすべて、みたいなところがあると言っても過言ではない。

 でも、甲斐はそれをした。
 してくれた。
 俺のぽんこつな心臓が、柄にもなくどくどくと音をさせている。甲斐は大丈夫だろうかという不安と――期待で。


 けれど甲斐は、雑誌から目も上げないまま言った。
「そんなわけねえだろ」
 と。