男子校的教師と生徒の恋愛事情

 ――四組も練習していなかった感じだったな。

 今も試合が行われている体育館のコートを眺める。コートは体育館を半分に区切って使用されていて、片方では次の試合が始まっており、もう片方では自分たちと同時刻で開始した試合が、まだ続いている。どうやら白熱しているようで、コート上で大声が飛び交い、コートの外からもそれぞれ熱のこもった声援が飛んでいる。

 ――すごいな。俺たちの試合とは大違いだ。

 伝馬自身が拍子抜けするほど、自分たちの試合はあっさりと終わった。試合が始まって、水瀬たちバレーボール部員の指示に従って動いていたら、あっという間に勝ちましたという感じだ。相手の四組も自分たちもバレーの練習をしていないのは丸わかりだったが、伝馬が思うに、運動神経の差が勝敗を決したという感じだ。日頃からスポーツをしている生徒と全然していない生徒では、ボールの動きに対する反応速度が見事に違っていた。

 ――だから御子柴は運動部員を集めたんだな。

 納得して感心した。とりあえずやるかーみたいなスタンスの水瀬だが、案外優勝を目指しているのかもしれない。

 そんなことを思いながらチラ見すると、水瀬も同じく視線を伝馬へ投げて、目元で笑った。どうも伝馬の顔にその考えが正直に浮かんでいたようだ。

「俺たちの次の試合までは、まだ時間があるから、それまでいったん解散。集合時間になったら、またここに集まってね」

 水瀬の説明では、一学年の第一試合の次は、二学年、三学年の第一試合があり、それが終わって第二試合が開始される。第二試合は勝ち上がった三クラスでくじ引きをして、アタリくじを引いた二クラスが試合をし、勝ったクラスが残ったクラスと決勝戦を行うという仕組みだ。これを学年ごとに行っていく。

「俺たちは、先輩たちの試合の補助に呼ばれているから。またあとでね」

 そう言って、バレー部員の二人は舞台ステージへ向かった。ステージには、バレーの試合の受付所が設置されている。

 伝馬は空になったペットボトルを握って、どうしようかと考えた。残ったメンバーはここに残って他の試合を観戦するそうなので、伝馬は第二体育館へ行って、勇太と圭の様子を見に行くことにした。

「それじゃ、またな」

 そう言い残して体育館を出ていく。入り口付近で司書の七生とすれ違い、なにげなく後を振り返ったら、体育館の隅にいた遼亜がすばやく立ち上がって、七生の方へ向かっていくのが見えた。

 へえ、仲がいいんだと意外に感じながら、伝馬は渡り廊下を進む。第一体育館と第二体育館は一本の渡り廊下で繋がっていて、今は運動着姿の生徒や教員が騒がしく行き交っている。伝馬も人の流れを避けながら、自然と早歩きになる。

 ――勇太は平気だろうけれど、圭は大丈夫だろうか。

 教室での圭の憂鬱そうな表情が脳裏に甦って、少々心配だった。

 第一体育館には数分もかからずに到着したが、大変に盛り上がっていた。

「もっと引っ張れやー!!」
「オマエラねばれ!!」
「クッソ!! 力出せー!!」
「踏ん張らんかい!!」

 怒号のような大声と、必死のかけ声と、悲痛な雄叫びと、鼓舞する絶叫が一大集約されて大音量となり、外まで漏れ聞こえてくる。第一体育館へ近づくにつれ、伝馬の耳にも賑やかに飛び込んできた。それで中の盛り上がりようは想像できたが、生徒たちがたむろしている入り口付近から後方越しに顔を覗かせると、想像以上に男臭い熱気ムンムンな光景が広がっていた。

 ――勇太や圭たちはどこだ?

 綱引きはバレーの試合と同じように二つにコートを区切って行われていて、どちらでも熱戦が繰り広げられている。応援団も声を張り上げているため、全体で体育館の空気を揺るがすくらいにうるさい。男子しかいないので、野太い野郎声一色だ。

 ――あ、いた。

 伝馬はそっと左へ首を伸ばした。コートの外側には応援する生徒たちの他に、出場を控えた生徒たちが雑多に並んで座っている。膝を抱えている生徒もいれば、両足を伸ばして楽な姿勢で競技を見物している生徒もいる。その中に一年三組の集団もいて、勇太は立ち上がって目の前の綱引きに腕を振り回してはしゃぎ、その隣では圭が胡坐(あぐら)をかいて微動だにせず座っている。まるで嵐が過ぎるのを待つがごとくの姿勢だ。

 ――ちょっと近くに行くのは無理だな。

 ごちゃついている周りの様子を見ながら、伝馬はくるっと(きびす)を返し、第二体育館へ戻ることにした。

 その途中で水のペットボトルを購入しようと、渡り廊下を右に曲がり、校舎へと向かう。一階の昇降口付近に自販機コーナーがあって、空のペットボトルを専用のゴミ箱に捨てて、値段の手頃な天然水を購入した。ひんやりと冷たくて、手で持つと気持ちがいい。

 昇降口は人の気配もなく、静まり返っている。体育館の騒々しさとはひどく対照的で、先程までいたそこにいた伝馬はそう離れていない場所のあまりの違いっぷりに、少々変な感覚になった。

 ふと、昇降口から見える外へ視線を投げた。日差しが照りつけ、空気が明るい。気温が上昇しているのは、日光の強さからも見て取れる。

 ――まだ時間はあるな。

 伝馬は冷たいペットボトルを手に、自分の靴箱で外履きに履き替えて、眩しい陽光に誘われるように外へ繰り出した。やっぱり暑いなと空を仰いだが、風が太陽の熱をやわらげるように吹いていて、そんなに気にはならなかった。