◇
考えても考えても答えにたどりつきそうになかった俺は、考えることを諦めた。
そのかわりに。
「……ねぇ、好きって何だと思う?」
ある日の昼食中、友達に尋ねる。
「……は?」
お箸で掴んでいた卵焼きはポロッと抜けて、お弁当の中に逆戻り。鳥羽は、思考停止したように俺を見つめたまま固まった。
鳩に豆鉄砲食らったような顔してる。
そうなるよなぁ……。
「やっぱりいいや」
何もなかったように目を伏せそうとするが、
「──ちょっと待って」
わざとらしく手を突き出すと、俺の言葉を遮るように声を荒げた鳥羽。
俺はびっくりして、目をまん丸にしていると、少し顔を寄せた鳥羽が、
「その話、詳しく話して」
俺の話に興味を持ったらしい。
「え、詳しく……? いや、やっぱりいい」
「なんで。矢野から言いかけたんじゃん」
「そうなんだけど、ちょっと言いにくいっていうか……」
なんて言い訳をすればいいか分からずに口ごもっていると、
「分かったから、とにかく早く」
さらにズイッと顔を寄せるから、これ以上は逃げられないと悟った俺は、仕方なく観念した。
せめて〝好き〟の確認だけ。誰に言われたとか、そういうことは伏せておこう。鳥羽に言ったらややこしくなりそうだし。
「……す、好きってどういうことなんだろうなぁと思ってさ」
男同士でこんな話題を話すことになるとは思っていなかった。
「好き?」
一瞬鳥羽は困惑したあと、
「好きってラブ? ライクじゃなくて?」
「う、うん、ラブの方」
「それなら、好意を抱くってことじゃないの。もっと相手に近づきたいとか仲良くなりたいとか」
気を取り直したように説明し始める鳥羽。
「あ、ああ、うん……」
俺もそのくらいは知識にある。人を好きになったことはないけれど。
「あー、あとは精神的なつながりはもちろん、肉体的な関わりを持ちたいとか。一緒にいるだけでドキドキするとか」
思い出したように淡々としゃべりだすが、ある言葉に反応した俺は、
「えっ、ちょっ……はぁ?!」
分かりやすく動揺してしまう。
「顔、赤いけど」
俺の顔は熱すぎる。
「……そうやって指摘するのやめて」
自分でも顔が赤いのなんて把握済みだ。
うあー、もうっ最悪。鳥羽に聞かなきゃよかった。ていうか、俺の想像以上の回答が現れるものだから、びっくりして。