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体育祭当日。青空が広がり、暑かった。
短距離走や長距離走、玉入れなど。たくさんの競技が終わり、午後からは借り物競走などが始まる。
「次はー、パン食い競走です。選手のみなさんは、グラウンドに集まってください」
放送部のアナウンスで、一斉にグラウンドに集まる。もちろん俺も。
高校に入って初めての体育祭。当然だけど、男子しかいなくて、共学校より熱気がすごい。
「今日、暑いね。体育祭日和だ」
鳥羽が言う。
見上げると、日光があまりにも眩しくて思わず目を細めて、
「……俺、早く日陰に戻りたい」
うんざりして思わずため息が溢れる。
「矢野は色白だからなぁ。肌焼けたらスカート着るとき大変だもんね」
「ちょっと、そういうことここで言うのなしだから!」
「みんな体育祭に夢中だから聞いてないって」
「もう〜……他人事だからってよく言うよ」
鳥羽とそんなくだらないやりとりをしている間に、パンッと音が鳴り第一走者がスタートする。
そしてあっという間に俺の順番が回ってくる。意外とパンを口で掴み取るのが難しくて、みんな苦戦していた。おまけに昼食後ということもあり、走ることすら困難で。俺も、パンをくわえるのにはかなり時間がかかった。
「おつかれー」
「うん、鳥羽も」
タオルで額の汗を拭う。
それにしても暑くてのどが乾いたなぁ。
「俺、飲み物買って来るけど鳥羽何かいる?」
「え、いいの? じゃあフルーツジュースで」
「……それ、逆に喉乾かない?」
「おいしいよ」
パン食い競争といっても適度に運動しているから喉カラカラなわけで。そんなときにフルーツジュースって、絶対逆効果な気がする。
「いや、おいしいのは分かるけど……まあ、いいや。それ買ってくるよ」
「ありがとう。あとでお金渡すよ」
「うん、分かった」
おでこからハチマキを取って、自販機に向かう。
鳥羽はフルーツジュース。俺は何にしよう。さすがに甘いのは今飲みたくないし、炭酸って気分でもない。
「──あれ? 矢野くん」
自販機の前で悩んでいると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「……あっ、先輩」
振り向くと、そこには夏樹先輩がいた。
「矢野くん、さっきパン食い競走してたね」
「うっ……。み、見てたんですか」
「うん、もちろん。さっきの矢野くんの一生懸命な姿、可愛かったなぁ」
公共の場で軽々とそんなことを言うから、
「ちょっ、先輩、何言ってるんですか……!」
周りに人がいないか確認する俺。