「このあとお友達と久しぶりに会ってランチに行って来るんだけどお昼ご飯大丈夫そう? 何か作ろうか?」
「適当に食べるから大丈夫だよ」
母さんはパートで働いている。基本、土日は休みの日が多い。父さんは、今単身赴任中で家にいない。
軽く朝食を済ませてから部屋に戻る。予習でもしようと教科書とノートを広げてみるが、全然集中できなくて放り投げた。
ベッドでゴロゴロしていると、時間はあっという間に過ぎる。
「朝陽、お母さん行ってくるね」
「あー、うん気をつけて」
玄関に向かった音が聞こえたあと、バタンッとドアが閉まった音がした。時刻は十時半。
「あーあ……今日、どうしよう……」
キャスター付きの椅子で移動して、カーテンを開けると、そこは青空が広がっていた。
いい天気だなぁ。こんな日にずっと家の中でくすぶっているのはもったいないなー。
──矢野ってすっげぇ可愛い顔してるよな!
頭の中で、また嫌な言葉がリピートされる。
「あーもうっ、いい加減忘れたいのに……!」
自分に自信がもてなくて、何をやるにも後ろ向き。
けれど、女装をしているときだけは自分に自信が持てる。
「久しぶりに女装……してみようかなぁ」
クローゼットに隠すようにしまってある姉からもらった女物の洋服。それほど多くはないが、クローゼットの半分を占めていた。
ウィッグはロングの一種類のみ。特にこだわっているほど女装に手をかけているわけではないため、ロングをその日の気分で下ろしたままか結んだりしている。
化粧は、もちろんしていない。そこまで気合いを入れてするほどでもないし、元々肌は綺麗な方だからこのままでも大丈夫。
「……うん、久しぶりのわりにはいい出来」
鏡の前でおかしなところはないかチェックする。
どこをどう見ても、女子だ。
白のTシャツに黒ワンピースを重ねただけの、何ともラフな格好。そこまで肩幅があるわけではないため、これが男だと気づくのはまずないだろう。
……あっ、でも例外が一人だけ。