「そうだ。夏樹先輩に連絡どうしよう……」

 〝次に女装するときは俺の前だけにして〟って言ってたよなぁ。

 断ることもできそうだけど約束を破ったら、〝お仕置きとしてキスする〟って……いや、さすがにそれは嘘だろうけど。

「あー、もうっ、仕方ないなぁ……っ」

 ベットサイドに置いていたスマホを取って、個人メッセージができるアプリを開く。

「えーっと、なんて言おう。今日女装するので夏樹先輩も来てください……? いや、なんでそんな強制的みたいな……うーんと……」

 打っては消し打っては消しを繰り返して、ようやく完成したのは。

【今日、女装しようと思っています。
夏樹先輩に連絡しようかしないか迷ったんですけど、例のお仕置きが怖かったのでとりあえず連絡だけしました。来なくても全然構いませんので】

 送信ボタンを押して、かばんを用意するとその中に必要最低限の財布と応急セットを入れた。

 ──ブブーっ

「えっ、早……っ!」

 一分もしないうちに夏樹先輩から返信が来る。

【絶対行く。何時にどこ?】

 何時に……うーん……

「十三時くらい…に駅広場…ですっと」

 送信すると、ものの数秒で返信があり。

【わかった】

 と、簡潔的なものだった。

 自分が連絡したとは言え、さすがに女装をそう何度も見られるとなると。

「ちょっと恥ずかしいなぁ……」

 鏡に映る自分を見て、姿は女子そのものだったから。


 ***


 待ち合わせ時間より五分ほど前に駅前広場に着いた。あたりを見渡すが、夏樹先輩の姿はまだなさそうだ。

「今、着きました…っと」

 すれ違いになったら面倒なことになりそうだからと、真っ先に連絡をする。

 ──ブブーっ…

 すると、メッセージではなくなぜか着信で。

【着信 夏樹先輩】

 と、スマホに表示されていた。

「はっ、はい、もしもし……」

 初めての先輩との電話に少し緊張して、声が上擦った。

『矢野くん、今どこー?』
「えっ、俺ですか……今、駅前広場ですけど……先輩はどこに……」
『あー、俺は──…』

 スマホの向こう側で、がやがやと何やら騒がしくなり声が聞き取りにくくなる。