肌にあたる風が心地よい、穏やかな夜だった。立ち止まって空を仰ぐと、優しい夜風が頬を撫でながら通り過ぎていく。
 
 振り仰いだ夜空は晴れていて、大き目の星がいくつか見えた。その星達の間を、薄く細長い灰色の雲が横にゆったりと流れていく。

 首をゆっくりと動かして夜空を見渡したあと、ぼんやりと思った。

 今日は月がないな──、と。