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「てなわけで、無事に元通り? になったからタツに感謝の気持ち」
「何で芹澤の手作りなの? 怖いんだけど」

 放課後、貴臣を待っている間にタツにお礼の品を渡す。貴臣がどうせなら、とタツのためにクッキーを作ってくれた。

「俺が適当なの買おうとしたんだけど、貴臣も感謝してるからって」
「あー、お前が選んだものをおれがもらうのが気に食わないって話ね」
「どういう見方するとそんな話になるんだよ」
「おれはお前より賢いんだよ。ありがたくいただきます」

 さっそく一口かじって「うまっ」と声をあげるタツ。俺も1枚もらおうとしたらガードされてしまった。タッパーにぎっしり詰め込まれたクッキー。俺だってまだ食べられてないのに。

 帰ったら、俺も食べるとしよう。昨日もらったけど、自分の分は学校には持ってこなかった。持ってくればよかった。

「雪斗、待たせてごめん。あ、クッキー味どう?」

 戻ってきた貴臣が俺に微笑んだ後、タツに訊ねる。

「すげーうまい。大したことしてねーのにありがとう」
「いやいや。すごい助かったよ」
「こいつ鈍くて苦労しそうだから頑張って」

 何やら俺の悪口だなと思ったものの、俺は入れない会話だと察した。2人を背に、俺は帰り支度を始めた。この2人の会話って、いつも俺にはよくわからない。遠回しなような、直接的なような。

「それが楽しくているから言われなくてもがんばるよ」
「確かに。他人が言うことじゃなかったわ。これ、ごちそうさま」
「いいえ。じゃあ、またね」

 話が終わるタイミングでよし、とリュックを背負った。

「タツ、またな」
「達者でなー」

 タツから謎の見送り方をされて「何だそれ」と笑って教室を出ると、貴臣が俺の肩を押して前を向かせた。返事はしなかったものの、わかったと答えるように前を見て廊下を一緒に歩いて行く。

 意外と嫉妬が多いのは、もう何となく気づいている。このくらいのことは、悪くないなと感じる。むしろ、まんざらでもない。

「今日も雪斗ん家に泊まっていい?」
「いいよ。貴臣がくれたクッキー、一緒に食おう」
「それもいいけど、この前、必死にクリアしてたあれまた見せて」
「何だっけ?」
「ほら、俺が寝ちゃったときにやってたゲーム」
「ああ、あれか。って、何で必死にクリアしたって――あんとき起きてたの!?」
「さあ?」

 悪戯っぽく貴臣が笑って、周囲を確認してから俺の手を引いた。何それかわいい。ときめきすぎて死にそうになるというのはこういうことかと、俺は生まれて初めて実感した。

END