窓の外から鳥のさえずりが聞こえて、ぼんやり目を開ける。朝の光が薄いカーテン越しに柔らかく差し込んでいた。ふぁ、とあくびをしようと腕を動かすと何かに引っかかった。
――は?
頭がだんだんとクリアになって、俺はゆっくり瞬きをする。すぐ目の前には貴臣の寝顔があった。力を入れようとしていた腕を緩める。
嘘、何で?
淡い明るさが貴臣を照らしている。どうしてか狭い自分のベッドで、貴臣と並んで眠っていた。
「どういうことだよ……」
大声を出しそうになった自分をどうにか抑えて、ため息まじりに独りごちる。
どういう経緯で一緒に寝る流れになったんだっけ。目元を覆って思い返しても、記憶にない。念のためもう一度確認してみる。現実は変わらず、貴臣は起きる気配もなかった。
あっちに布団は敷いてあるのに、なぜか俺はベッドの中。ベッドに戻ったのは何となく覚えているから、俺が貴臣の寝る場所に入っていったのかもしれない。
寝息が聞こえるほどの距離。この近さでよく眠れたな、俺。今の今までぐっすりだった。隣にいることに気づきもしないままいた。
貴臣の顔の前で手を振ってみても、反応がない。そーっと頬に触れて、その温もりに思わず顔がほころんでしまう。
2人だけの時間がゆっくり流れていることが、不思議なくらい愛おしかった。寝ている貴臣だと、俺は下手に緊張することもないらしい。起きてこの距離でいられたら、とても平常心ではいられないだろう。
俺が動いたら貴臣を起こしてしまいそうだ。もう一眠りするしかない。
二度寝から覚めてもまだ貴臣は眠っていて、体調でも悪いのかと心配になってきた。貴臣は朝が得意だし、アラームがなくても普段は俺より早い。
起こすべきが悩んでいる途中で、ようやく目を開けた貴臣が「おはよう」とふにゃりと笑った。
「おはよう、貴臣。俺より遅いなんて珍しいな」
元気そうでよかった。たまには貴臣だって寝坊する日くらいあるよな。1人で納得していると「雪斗のせいで寝不足だった」と、まぶしそうに目を細めて貴臣があくびをした。
とっさに理由がわからなくて、ひとまず俺から謝罪を口にする。昨日の覚えている限りの記憶を遡って、ゲームに負け続けて何戦も挑んだのを思い出した。最終的に、勝敗がどうなったかは曖昧だ。
あんなに家の中で2人で過ごすことを意識していたはずが、いつの間にかゲームに熱中していた。ムードの欠片もない。
「俺が貴臣の寝てるとこに来た?」
寝転んだときに貴臣が横にいた覚えはなかった。
「ううん、ちゃんと自分でベッド入ってたよ。ゲームやってる途中でいきなり寝たけど。雪斗、相変わらずカフェイン効果ないよね」
「うん。……ってことは、何かあって2人で寝たわけじゃないんだよな?」
「まだ寝ぼけてんの? 雪斗から一緒に寝ようって誘ってくれたのにひどいなぁ」
唇を尖らせた貴臣が冗談めかして笑う。
俺は体を起こして一応Tシャツと短パンはそのまま着ていることを確認した。体もとくに何も違和感はない。
「俺、貴臣に何かした?」
「雪斗が何かしてくるってことはないよ。俺にされたの間違いじゃない?」
「え、何もされてない……よな?」
自分で言って不安になってきた。
寝起きで突然起き上がったせいで、ちょっとくらっとした。その他は、いたって通常通りのはず。
「うん。雪斗はさっさと1人で寝たよ。おやすみって聞こえたと思って振り返ったらもう寝てた」
何だ、俺が一緒に寝ようなんて言った話は貴臣の嘘か。安堵のため息を深く吐いた。
「貴臣に何もされなくてよかったってことでいいのか」
「まだ雪斗には早いでしょ。気長に付き合うって言ったから、そのうちね」
「そのうちかはわかんねぇけど……そのうちってことで。デートだったら、また行こう」
今日はどこ行く? と訊ねると、貴臣はうつらうつらとしたまま「楽しみだね」と笑った。答えてくれたけど、答えになってない。まだ眠いらしく、まぶたがそのまま閉じてしまった。
まあいいか、起きたらまた話そう。のんびり過ごすだけだっていい。タオルケットを貴臣のほうにかけてやる。
貴臣が起きても、そんなに緊張感がなかった。寝ぼけた貴臣だと、俺も少しは余裕ができていい。
ずっと寝てられたら寂しいから、悩ましいところだ。
横になる前に俺は普段あんまり見ることのできない貴臣の寝顔を見つめる。貴臣は俺の前でよく寝るけど、この距離で寝るのはとくべつだ。
恋人の寝顔、確かにこれは撮りたい。
「……ほんと、やばいなこれ」
シャッター音が静かな朝を切り取る。安心しきってすやすやと眠る貴臣。
うつむいて微笑む自分が妙にくすぐったく感じられた。こういうことか。この幸せな瞬間を収めておきたい。
意味がわからないと思っていた貴臣の行動の心理が、俺にもよくわかった。
――は?
頭がだんだんとクリアになって、俺はゆっくり瞬きをする。すぐ目の前には貴臣の寝顔があった。力を入れようとしていた腕を緩める。
嘘、何で?
淡い明るさが貴臣を照らしている。どうしてか狭い自分のベッドで、貴臣と並んで眠っていた。
「どういうことだよ……」
大声を出しそうになった自分をどうにか抑えて、ため息まじりに独りごちる。
どういう経緯で一緒に寝る流れになったんだっけ。目元を覆って思い返しても、記憶にない。念のためもう一度確認してみる。現実は変わらず、貴臣は起きる気配もなかった。
あっちに布団は敷いてあるのに、なぜか俺はベッドの中。ベッドに戻ったのは何となく覚えているから、俺が貴臣の寝る場所に入っていったのかもしれない。
寝息が聞こえるほどの距離。この近さでよく眠れたな、俺。今の今までぐっすりだった。隣にいることに気づきもしないままいた。
貴臣の顔の前で手を振ってみても、反応がない。そーっと頬に触れて、その温もりに思わず顔がほころんでしまう。
2人だけの時間がゆっくり流れていることが、不思議なくらい愛おしかった。寝ている貴臣だと、俺は下手に緊張することもないらしい。起きてこの距離でいられたら、とても平常心ではいられないだろう。
俺が動いたら貴臣を起こしてしまいそうだ。もう一眠りするしかない。
二度寝から覚めてもまだ貴臣は眠っていて、体調でも悪いのかと心配になってきた。貴臣は朝が得意だし、アラームがなくても普段は俺より早い。
起こすべきが悩んでいる途中で、ようやく目を開けた貴臣が「おはよう」とふにゃりと笑った。
「おはよう、貴臣。俺より遅いなんて珍しいな」
元気そうでよかった。たまには貴臣だって寝坊する日くらいあるよな。1人で納得していると「雪斗のせいで寝不足だった」と、まぶしそうに目を細めて貴臣があくびをした。
とっさに理由がわからなくて、ひとまず俺から謝罪を口にする。昨日の覚えている限りの記憶を遡って、ゲームに負け続けて何戦も挑んだのを思い出した。最終的に、勝敗がどうなったかは曖昧だ。
あんなに家の中で2人で過ごすことを意識していたはずが、いつの間にかゲームに熱中していた。ムードの欠片もない。
「俺が貴臣の寝てるとこに来た?」
寝転んだときに貴臣が横にいた覚えはなかった。
「ううん、ちゃんと自分でベッド入ってたよ。ゲームやってる途中でいきなり寝たけど。雪斗、相変わらずカフェイン効果ないよね」
「うん。……ってことは、何かあって2人で寝たわけじゃないんだよな?」
「まだ寝ぼけてんの? 雪斗から一緒に寝ようって誘ってくれたのにひどいなぁ」
唇を尖らせた貴臣が冗談めかして笑う。
俺は体を起こして一応Tシャツと短パンはそのまま着ていることを確認した。体もとくに何も違和感はない。
「俺、貴臣に何かした?」
「雪斗が何かしてくるってことはないよ。俺にされたの間違いじゃない?」
「え、何もされてない……よな?」
自分で言って不安になってきた。
寝起きで突然起き上がったせいで、ちょっとくらっとした。その他は、いたって通常通りのはず。
「うん。雪斗はさっさと1人で寝たよ。おやすみって聞こえたと思って振り返ったらもう寝てた」
何だ、俺が一緒に寝ようなんて言った話は貴臣の嘘か。安堵のため息を深く吐いた。
「貴臣に何もされなくてよかったってことでいいのか」
「まだ雪斗には早いでしょ。気長に付き合うって言ったから、そのうちね」
「そのうちかはわかんねぇけど……そのうちってことで。デートだったら、また行こう」
今日はどこ行く? と訊ねると、貴臣はうつらうつらとしたまま「楽しみだね」と笑った。答えてくれたけど、答えになってない。まだ眠いらしく、まぶたがそのまま閉じてしまった。
まあいいか、起きたらまた話そう。のんびり過ごすだけだっていい。タオルケットを貴臣のほうにかけてやる。
貴臣が起きても、そんなに緊張感がなかった。寝ぼけた貴臣だと、俺も少しは余裕ができていい。
ずっと寝てられたら寂しいから、悩ましいところだ。
横になる前に俺は普段あんまり見ることのできない貴臣の寝顔を見つめる。貴臣は俺の前でよく寝るけど、この距離で寝るのはとくべつだ。
恋人の寝顔、確かにこれは撮りたい。
「……ほんと、やばいなこれ」
シャッター音が静かな朝を切り取る。安心しきってすやすやと眠る貴臣。
うつむいて微笑む自分が妙にくすぐったく感じられた。こういうことか。この幸せな瞬間を収めておきたい。
意味がわからないと思っていた貴臣の行動の心理が、俺にもよくわかった。