「ショウジ。なに考えてるの! 白鳥先生にまで聞き出そうとするなんて!」
「うるさいなぁ。さっきから声がデカいんだよ。もう夜遅いんだから騒ぐな」
「だって! あんたが先生に迷惑掛けるから!」
「別にそんなことないだろ?」
「お医者さんに自分のプライベートのことを質問するなんて迷惑でしょうが。先生だって返事に困ってたじゃない!」
そうか? 逆に真摯に聞いてくれていたと思うけどな。
結局、彼女のことは知らないと返されたが。
コハルは眉間にしわを寄せ、いつまでも機嫌が悪いままだ。このままいられても、僕も気分が悪い。
「コハル。今日はもう帰れよ」
「なに? 姉に向かってその態度はっ」
「ずっとイライラしてるじゃないか。僕もゆっくりできないし、帰ってくれ」
わざと冷たくあしらった。
コハルは頬を膨らませ、荷物を持って背を向ける。
去り際に、ぽつりと呟いた。
「……ママにも連絡しておくんだよ。退院時、迎えに来てくれると思うから」
「わかってるよ。そういえば、母さんは?」
病院まで運んできてくれたのは、母さんのはず。どこにいったのか、目覚めてから一度も姿を見ていない。
「ママは、あたしがここに来てから帰ったよ。急用があるからって」
こんなときに急用?
どれだけ大事な用事なんだろうと疑問に思ったが、別に母さんがいなくても寂しくなんかない。
「あっそ」
つれない声でひとことだけ返した。
コハルは一度も振り返ることなく、病室のドアを開けて立ち去っていった。
僕一人になった病室内はたちまち静けさに支配される。
小学生の頃入院していたときは、夜の病院の雰囲気が怖くてなかなか寝つけなかったのに。高校生になったいまでは、むしろ一人でいると落ち着く。
今夜だけは忘れたい。コハルも母も、態度がおかしいから。明日家に帰るのも気が重いよ。
ふと、ベッド横にある棚に目をやると、僕のスマートフォンが置かれていることに気がついた。
そういえば……サヤカからの返事は来ているのかな。
彼女を思い出すと、胸がキュッと締めつけられた。僕は急いでスマートフォンを手に取り、通知を確認してみた。
すると画面には《新着メッセージ》の文字が──
「サヤカだ!」
メッセージの送り主を見て、手に汗が滲み出た。
やっと、返事をしてくれた。よかった。本当によかった。
頬を緩ませ、僕は深呼吸してから内容を確認した。
しかし──
「は……? なんで……?」
彼女からのメッセージを目にした数秒間、僕は息をするのを忘れてしまった。「なぜ」の文字が頭の中を埋め尽くし、思考すらも止まる。
メッセージは、今日の夜八時に来ていた。僕は彼女に《体調は大丈夫か》という内容を送ったのに、それに対する返事ではなかった。
淡々とした内容で、こう書かれていたんだ。
《ショウくん、ごめんね。今度の土曜日、やっぱりコンサート行くのやめよう。チケットの予約もキャンセルしたから》
絵文字もなにもない、寂しいメッセージ。
本当に彼女が打ったものなのか? そう疑いたくなるような内容だったが、何度送り主を見ても、サヤカで間違いなかった。
徐々に息が上がっていく。心臓がバクバクと脈を打ち、体が熱くなった。
胸が、痛い。いつもの頭痛とは比べものにならないくらい、胸の痛みが激しかった。
「なんで、急にキャンセルなんだよっ?」
震えた指先で、僕は返事を打ち込む。《急用ができたのか? だったら別の日にしよう》と、即座に送った。
既読はつかない。
目の奥が熱くなり、やがて生ぬるい涙が頬を伝った。画面が滲み、文字を読み取れない。
十分、二十分、一時間と時が流れるが、僕はずっと放心状態で固まったままだ。
サヤカ。どうしたんだ。理由を教えてくれよ……。
いつまでもいつまでも、返事を待っていた。けれど、どんなに時が経ってもサヤカからの返事は来なかった。
「うるさいなぁ。さっきから声がデカいんだよ。もう夜遅いんだから騒ぐな」
「だって! あんたが先生に迷惑掛けるから!」
「別にそんなことないだろ?」
「お医者さんに自分のプライベートのことを質問するなんて迷惑でしょうが。先生だって返事に困ってたじゃない!」
そうか? 逆に真摯に聞いてくれていたと思うけどな。
結局、彼女のことは知らないと返されたが。
コハルは眉間にしわを寄せ、いつまでも機嫌が悪いままだ。このままいられても、僕も気分が悪い。
「コハル。今日はもう帰れよ」
「なに? 姉に向かってその態度はっ」
「ずっとイライラしてるじゃないか。僕もゆっくりできないし、帰ってくれ」
わざと冷たくあしらった。
コハルは頬を膨らませ、荷物を持って背を向ける。
去り際に、ぽつりと呟いた。
「……ママにも連絡しておくんだよ。退院時、迎えに来てくれると思うから」
「わかってるよ。そういえば、母さんは?」
病院まで運んできてくれたのは、母さんのはず。どこにいったのか、目覚めてから一度も姿を見ていない。
「ママは、あたしがここに来てから帰ったよ。急用があるからって」
こんなときに急用?
どれだけ大事な用事なんだろうと疑問に思ったが、別に母さんがいなくても寂しくなんかない。
「あっそ」
つれない声でひとことだけ返した。
コハルは一度も振り返ることなく、病室のドアを開けて立ち去っていった。
僕一人になった病室内はたちまち静けさに支配される。
小学生の頃入院していたときは、夜の病院の雰囲気が怖くてなかなか寝つけなかったのに。高校生になったいまでは、むしろ一人でいると落ち着く。
今夜だけは忘れたい。コハルも母も、態度がおかしいから。明日家に帰るのも気が重いよ。
ふと、ベッド横にある棚に目をやると、僕のスマートフォンが置かれていることに気がついた。
そういえば……サヤカからの返事は来ているのかな。
彼女を思い出すと、胸がキュッと締めつけられた。僕は急いでスマートフォンを手に取り、通知を確認してみた。
すると画面には《新着メッセージ》の文字が──
「サヤカだ!」
メッセージの送り主を見て、手に汗が滲み出た。
やっと、返事をしてくれた。よかった。本当によかった。
頬を緩ませ、僕は深呼吸してから内容を確認した。
しかし──
「は……? なんで……?」
彼女からのメッセージを目にした数秒間、僕は息をするのを忘れてしまった。「なぜ」の文字が頭の中を埋め尽くし、思考すらも止まる。
メッセージは、今日の夜八時に来ていた。僕は彼女に《体調は大丈夫か》という内容を送ったのに、それに対する返事ではなかった。
淡々とした内容で、こう書かれていたんだ。
《ショウくん、ごめんね。今度の土曜日、やっぱりコンサート行くのやめよう。チケットの予約もキャンセルしたから》
絵文字もなにもない、寂しいメッセージ。
本当に彼女が打ったものなのか? そう疑いたくなるような内容だったが、何度送り主を見ても、サヤカで間違いなかった。
徐々に息が上がっていく。心臓がバクバクと脈を打ち、体が熱くなった。
胸が、痛い。いつもの頭痛とは比べものにならないくらい、胸の痛みが激しかった。
「なんで、急にキャンセルなんだよっ?」
震えた指先で、僕は返事を打ち込む。《急用ができたのか? だったら別の日にしよう》と、即座に送った。
既読はつかない。
目の奥が熱くなり、やがて生ぬるい涙が頬を伝った。画面が滲み、文字を読み取れない。
十分、二十分、一時間と時が流れるが、僕はずっと放心状態で固まったままだ。
サヤカ。どうしたんだ。理由を教えてくれよ……。
いつまでもいつまでも、返事を待っていた。けれど、どんなに時が経ってもサヤカからの返事は来なかった。