『〇〇市でおきた児童虐待事件は両親による心理的虐待であり、家族内で差別をし、被害児童を虐待していたと思われることが__』
朝から流れるニュースを横目に一人で朝ごはんに手を付ける。
隣の部屋からは優希の咳き込む声と両親が優希を心配し気遣ってる声がきこえる。
嫌でも見慣れた光景だ。
うるさいほど耳に響くアナウンサーの声。
もう聞きたくなくてテレビを消し、小さくため息をつく。
病弱の優希ばかりに向けられる愛情は私に向けられることはなかった。
ご飯を無理やり胃に詰め込み吐きそうになるのを抑えながら部屋に行く。
ハンガーに掛けられた見慣れた制服はもう、嫌というほどきた。
つい、1年前までは、この制服を着ていることが自分の中での自信になっていたのに、今となれば着たくないと思うほどだ。
ゆっくりと外に出ると、4月とは思えない寒さだった。
家から近いからという理由で受けた高校は超が付く進学校で、制服も可愛く校舎もきれいで公立の高校とは思えないほどだった。
それを目当てに入る生徒もいるくらいだ。相当なものなのだろう。この学校は。
学校の近くになるといろんな制服のオプションを組み合わせた生徒が口々に「おはよう」と挨拶を交わす。
昨日のテレビの話、週末に家族で出かけたこと、いろんなことを話していた。
パタンッと響く靴箱の音が天井に反射して響き渡る。
自分の教室の前に行くともう既に人が来ていたのか大きな声で話す声が聞こえる。
また地獄が始まると思うと踵を返し家に帰りたくなるけど家に帰っても居場所がないから結局はここに縛られるしかない。
意を決して、中には入ろうと扉に手をかけた。
ガラッと木製でできたドアが音を立てる。
すると、こちらに気づいた女子が軽くこちらを見るが、思っていた人と違ったのかすぐに友達のほうに向き直り話を始める。
こんなのは日常だ。
それなのに何故かいつも寂しく思ってしまう。
去年、クラスで人間関係でトラブルを起こしてから、人と関わるのが怖くなった。
それは、家族にも打ち明けていない。
その影響で、進級しても、友達ができずクラスでは孤立状態だ。
親からは
「いおりは心を開くまでが遅いのよ。もっと早く壁を壊して友達を作りなさい。」 
毎回そういわれる。
何かアクションを起こさないと友達が中々作れない事は頭では理解していた。
だけど、心が、体がそれを拒んでしまう。
「嫌だ!」って拒むんだ。
そんなことを考えるのすら嫌で私は小説に目を落とす。
周りの雰囲気や話していることに意識は持っていかない。
そんなの、自分の労力を無駄に消費するだけだから。
図書室に行こうと席を立ち廊下にでた。
しばらく歩くと、突然
「いおりん」
と図書室に入る前に名前を呼ばれた。
振り向くと、去年同じクラスだった、葵乃(きの)ちゃんがいた。
去年、一番親しくさせてもらった人で今年から文系に進んだ子だ。
「なに。」
「図書室一緒してもいい?」
「え、うん。別にいいけど」
葵乃ちゃんの腕の中に抱えられた2冊の本。
「ちょうど、読み終えたから返そうと思って。いおりんは?」
質問されると思わなくて思わず言葉に詰まってしまった。
「わ、わたし?」
話を聞いてなかったかのように振る舞い聞き返す
「いおりんしかいないよ。なんで図書室にきたの?」 
「わたしは…」
必死に理由を探した。
葵乃ちゃんに言えるわけがない。
教室で孤立してるから、とてもじゃないけど長い時間入れる場所では無いから、気晴らしに来たなんて言うことができなかった。
「丁度、朝読書の本を家から持ってくるの忘れちゃって、借りないとマズイって思ったからきたの。」
それとなく、この場を乗り切れそうな理由を葵乃ちゃんにいった。
「そっか」
優しく答えてくれた。
葵乃ちゃんは、吹奏楽部に入っていて誰にでも優しくて勉強もできる、みんなから好かれる存在だったことは覚えている。
陰キャで本しか読んでなくて誰とも関わろうとしない私にもたくさん話しかけてくれた。
当たり障りのない返答を探して葵乃ちゃんと会話をしていた。
「最近どう?」
「う〜ん。まあまあかな。」
「友達できた?」
「それは…」
私の状況を察したのかそこから先の会話は続かなかった。
「優希ちゃん元気?」
大嫌いな妹の名前を出されて少し嫌な気持ちになった。
「優希?今日は体調悪いよ。普段は元気に学校行ってる。」
「そっか」
ふと、時間が気になって時計を見る。
あと5分で朝読書の時間が始まるところだった。
随分と図書室に長居してしまったみたい。
「ねえ、もうすぐ朝読書始まる。」
「あ!ほんとだ」
「私も行くから葵乃ちゃんも戻んな。」
「そうだね。またね」
「うん、またね」
そして、各自教室に戻った。
教室に戻ると、ロッカーの前に座り込み群がっている一軍がいた。
しかもその近くにある机は私の席だ。
心の中でどいて欲しいと思いつつ口に出せないのは自分の立場がわかっているからなのかそれとも私が弱いだけなのかはわからない。
席に座り大人しく本を読もうと思い、椅子を下げると突然椅子を蹴られた。
「お前一言言えよ」
どうも、何も言わずに席を下げたことが気に障ったみたい。
「ご、ごめんなさい」
そういうと、椅子を勢いよく私の方に戻してきた。
その瞬間、担任の先生が来て、ロッカーの前で群がっていた女子が蜘蛛の子を散らしたかのように自分の席についた。
「なんで、朝からこんな目に…」
正直こんなことが毎日続いていると学校にも行きたくなくなる。
だけど、親に迷惑を掛けられないから頑張って通っている。
別室登校にしてくれるなら毎日いきいき通うけど、別室登校には親の許可と理由が必要で親にはそんなこと言えるわけなく、結局この状況だ。
こんなのが毎日続くくらいならいっそのこと死んだ方がマシだと思ってしまう。
「死にたい。」
読書をしながらそんなことを考えていた。
そして、SHRが始まるチャイムがなる。
「はい、起立! おはようございます!」
自分の気持ちには似つかないほどの明るい挨拶が飛び交う。
先生が今日のお知らせを話していたみたいで、ボーッと話を聞いていた。
「図書委員会だれだ?」
私が図書委員会だけど、手を挙げる勇気がない。
すると、先生がクラスの係表を見ていた
「えっと、図書委員会は、神山だな。話聞いてたか?」
下を向いて目を逸らすと、
「今日の昼休みに委員会があるからしっかり行くように。いいな?」
「はい」
聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の声で返事をする。
そしてSHRが終わった。
そして1時間目の授業を確認するために時間割をみた。
今日は4時間目に体育を控えている。
男女べつ番号順に分かれたその後に前半の番号と後半の番号で分かれ、各種目を行う。
これが、私の通う高校の体育だ。
それが大嫌いだ。
なぜなら、会話をしたことがない人たちばかりで、しかもクラスのリーダー格のグループの集まり。
そんなわけで体育が大嫌いだ。
そしてSHR終了後からの10分間の休み時間が終わった。
1限の担当教師が入ってくる。
そして、本鈴がなり授業が始まった。
色々先生が話しているのを集中して聞いてる私、逆に先生の解説とかを無視して話を聞かずに遊んでいるクラスの人。
授業風景も雰囲気も最悪だ。
どの先生も諦めているのか午前授業に来た先生はみんな無視して授業を続行していた。
4限に差し掛かる10分休み。
本当にやりたくないから休むために保健室に行こうかとも考えた。
だけど、熱もないし、体調も悪くない。
だから、行く口実にはならない。
渋々着替えを始める。
今回の種目はバスケ。
チーム競技だから、一番やりたくない。
できれば個人の力でできる種目をやりたいところだけどそればかりは学校側が決めているからなんとも言えない。
はあ…とため息をつきながら着替える。
そして体育館シューズを持ち第一体育館へ向かう。
最初はこの移動の間も見たことないものばかりで興味を惹かれていた。
だけど、今となれば見慣れたものばかり。
体育館に行く道にも物珍しいものはないから何も考えずに通りすぎる。
そして、体育館へつき、靴を履き替えすぐにクラスの待機列に並ぶ。
先生はまだ来ていないからか、ザワザワしていた。
そして、授業開始2分前のチャイムと同時に先生がきた。
そして、
「気をつけ!おねがいします!!」
その挨拶とともに地獄の時間が始まった。
体操が終わると今日の授業内容を先生が説明しバスケの授業が始まる。
そして最初は他クラスが試合をしていた。
私はその様子をただぼーっと見ていた。
元気に笑ったり、ゴールを決めた子を褒めたり、自分のクラスではありえない風景がみえた。
(羨ましい)
そんなふうに思うのはなんでだろう。
そんな雰囲気がない私のクラス。
かろうじている、隣のクラスのお友達。
その子達が横にいてくれてる。
でも、心の何処かで疑ってしまう。
本当にこの子達は裏切らないのかなって。
去年も、裏切らないと思っていた仲良かった子達がすぐに裏切った。
テストの点数如きで。
醜いし、くだらないし。
馬鹿らしかった。
初めて、人に裏切られた。
そんなことを考えていると、体育の先生が
「じゃあ、次9組な。早く準備しろ。」
渋々立ち上がり、横にいる友達に
「行ってくるわ。」
と言ってその場を離れた。
「はい、これ。」
クラスの人からビブスをもらい、身につける。
ダサいな、と思ってしまう。
ピーッと笛がなり試合が始まる。
ボールをつく音と床を靴が擦れる音が響く。
「神山さん!」
ボールパスされた。
ちゃんとキャッチした。そしてボールをつきゴール前まで走る。
「ゴールしていいよ!」
そう言われ、ボールを投げた。
ボスッ!と音がしゴールの中に入った。
よしっ!とおもった。
「ナイス」
クラスの人にそう言われた。
そしてどんどんクラスの人が点を決め相手に大差をつけて勝った。
「いおりちゃん、すごかったね。ゴールまで一直線だったもん。」
「ありがとう。褒めてくれて。嬉しい。」
うまくは笑えないけど、心からそう思ってることを伝える。
心の中でその言葉はきっと私にはお世辞にしか聞こえてないけど。
いつからか、私は笑い方を忘れた。
学校で感情を出さなくなった。
クラス委員長に突っかかれることもあるけど淡々と自分の言い分を聞かせる。
周りからは感情の起伏がないとか思われてるかもしれないけど、関わりたくないからべつにどうでもいい。
私にとってはそれだけのことだ。
たった一年と考える人がいる一方私は一年もあると考える。あと何日で長期休み、そんなの考えてると嫌気がさすから数えない。
でも、テスト期間だけは最高の時間だ。
地獄みたいな授業を聞かずに済むし、家に帰って勉強していればいいだけ。
私は、私にとってはその時間が大好きで堪らなかった。
だけどそんなテスト期間もたった4日。
短すぎる。
しかも12月はテスト期間が開けてすぐに3泊4日の修学旅行だ。
その時期だけ、過ぎてほしくない。だって、至福の時間だから。
朝が来ることが怖くてたまらない。
夜が一生明けなければいいとも思う。
それが私だけの思いであり、みんなとは違うこともわかってる。
わたしって、なんでこうなったのかな。
そして放課後になると帰宅する準備をする。
そして帰宅した。
「ただいま。」
「あっ。おかえり、いおり」
珍しくお母さんが話しかけてきた。
だけど、話しかけてほしくなかった。
だって、優希が大切なのはわかってるから。
「優希は?」
「あら、今元気よ。」
私はそっけなく返事をする。
すると、
「いおり。いつもごめんね。なんでも、やらせちゃって。」
「なんでいきなり謝んの?」
「なんとなくそう思ったのよ。」
少し微笑んだ。
「じゃあ、ウチは部屋行くね。」
お母さんは小さく頷いた。
はあ、いつ死のうかな。