「はぁ…最近…怪獣被害多いよねー…」

「そうだね〜最近は物騒になってきてるよね〜」

あ、これいいかも…
私は手に取った服をアズりんに渡す。

白いワンピースだ。
きっと着たら可愛いだろうし、これで隆一くんもイチコロでしょう。

私たちは今、ショッピングモールに来ている。
今日は日曜日ということもあって、私たちは服を選びに来ているのだ。

アズりんの勝負服。
それを互いの意見をぶつけ合って抗議しながら、どれが良い服かを選ぶ。
アズりんの次のデートを良いものへとするために。

ヒーローとしての意識を忘れずに。
「そういえば、アズりんってレベルどれくらいなの?」

私が昨日測ってみた時は、レベル24だったけど…
アズリアはどれくらいなんだろう…

「私はそもそも攻撃能力がないから…レベル3ってところだったよ〜…レベルは攻撃力を基準にして判断づけているからね〜…」

そうなんだ…初めて知った…

「そういう奏音ちゃんはどうなのさ〜?」

「わ、私?私は昨日測ってみた時点で、24レベルだったな…」

「え?シャイニーってトップヒーローは20レベルって聞いたけど…もしかして、火力に関しては一番強い?」

「え?ほんと?そ、そうなんだ…」

重たい責任を負う任務が来ないと良いんだけど…
私に大勢の命を背負うことなんてできないよ…

「まあさ、今日はせっかくの日曜なんだし!奏音ちゃんも霧矢くんを堕とすための服、選ばないとじゃな〜い?」

アズりんがそう言いつつ、私の脇腹をチョンチョンと指で小突く。
「お…堕とす!?ななななな、何を言ってるの…!!!!?」

「え〜?霧矢くんと毎日一緒にいるくせに反論するつもり〜?」

え?な、なんでその事を!?
誰にも言ってはいないはずなんだけど…!!!!

「ふふふ〜それよりほーら!!服を選びましょ〜」

「そ、そうだねー!せっかくの休日なんだし、楽しまなくちゃね!」

私は、また服を選ぼうとアズりんを連れて、服屋の中に潜る。
良さそうな服があれば、アズりんに着させる。

お人形さんみたいで可愛いなぁ〜

「きゃあああああああああ!!!!!!!!!!」

すると一階から悲鳴が響いた。

「な、なに今の!?」

「悲鳴…もしかして怪人!?」

「行ってみよう奏音ちゃん!!」

私たちが一階に向かうと、そこには一人の金髪の少女がナイフを持っていた。

「私の名前はライリー!今すぐ秩序保安委員会の人を呼んで!!」

ライリーと名乗った女の子の横には、真一文字に裂かれた壁の跡。

コンクリートが5センチほど削られている壁は、その彼女のパワーを示している。

「少なくともレベル10はありそうだね…」

「そ、そうだね…これって変身しないと…かな?」

「そうでしょ!行くよ奏音ちゃん!!」

そう言うと、アズりんは3階から、飛び降りながら、光に包まれて変身。

「あ、アズりん!!!もぉ〜!!!」
私も続けて3階から飛び降り、光のステッキで変身。

こうも、Vさんの魔法のホウキに乗っていると、3階の高さが段々と恐怖心が無くなってくる。

ダン!!!
と音を立てて着地する私とアズりん。

多くの人の視線が集まる。

死刑執行人(エグゼキューショナーズ)と、武器破壊人(ソードブレイカー)の参上だよ!!」

「あ、アレが死刑執行人(エグゼキューショナーズ)!!!可愛いな…」

「お人形さんみたい!!」

何故かノリノリのアズりんと、そこら中から沸く
そして、私たちが何物なのかはっきりとアズりんは自己紹介すると、ライリーと言われた少女が「わーい!!!奏音ちゃんだ〜!!!」と大きな声で、更に私の方をキラキラとした目で見つめる。

な、なんで…????????

「か、か、奏音ちゃん???い、一体誰のことかな????」

滝のように流れる冷や汗。
何故身バレしているんだ!?という焦り。
それに嘲笑うかのようにクスクスと笑うアズりん。
 「きょ、共犯者!?」

私は、アズりんを睨みつけながら問うが、アズりんは首を横に振る。

「えぇ?じゃあ、誰が…」

「私たちのボスだよ!!!」

ボス?もしかして、ハッキング班でも居るの!?

「そ、それよりも!!!貴女の目的は何!?」

ライリーは、うーんと少し考えると、私の目的はぁ…とボヤく。

そして、「世界の平和!!!」と言った。

「せ、世界の平和!?じゃ、じゃあどうしてこんなことを!?」

「秩序保安委員会の人達に言いたいの!!みんなが平等にして欲しいって!」

平等?なんで?
この子は見るからに私たちのように暮らしていそうだ。
特に何か、重い物を背負っていなさそうな、明るい笑顔。
いや、もしかしたらこの明るい笑顔は、ナイフを持っているため、凶器を持ったための興奮で出てきた笑顔なのかも…

死刑執行人(エグゼキューショナーズ)やれぇ!!!!討伐してくれぇ!!!!」

遠くから響く声。

死の淵に立たされたような絶望した声が響く。

「そいつは化け物だ!!!殺してくれぇぇぇ!!!!」
一人の男が声を挙げるのが分かった。

「なんでそんな事言うの?」

すると、一瞬で目の前にいた少女がその場から姿を消し、そして、声を上げた男の方へと移動していた。

「え!?」

目に追えなかったそのスピード。
ライリーは、声を上げているた男を軽々と、持ち上げて、そして4階の手すりから、手を離せば落ちるようにいつの間にか男をぶら下げている。

私達はその男から手を離した時に落ちる落下地点に移動する。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!こ、この化け物!!!!やめてくれ!!!!!!」

「この化け物?私は…いつもそうやって言われてきた。別にこの体に生まれたかったんじゃないんだよ?願って言って欲しかったわけじゃない…なのに化け物呼ば回りされるのがどれだけ苦しいか知ってるの…?」

少女の顔は少し暗くて見えなかったけど…多分、笑ってはいた。
でもそれが、本当に喜びから出る笑顔なのかと言われたら、たぶん…違う…

「あ…あなたは何者…なの…?」

アズりんが恐る恐る聞いた。

「私は、怪人と人間のハーフなんだ!」

明るい声、明るい笑顔。
でも、幼い少女だからこそわかる、ちょっとした不気味感。

この子、我慢してる。

「ホントはね…私は自分の事を怪物呼ばわりしてる人は全員殺してあげたいの…でも、私の大切な人たちが、殺しは憎しみを生むだけだ!って教えてくれたから…無闇な殺しはしない…」

そういうと、ライラは吊り下げていた男の人を、4階へと引き上げ、4階の地面へと下ろす。

男は「ひぃ!!!!ば、化け物がぁぁぁぁ!!!!!」と言いつつその場から離れた。

「大丈夫だよ…我慢できるもん…」

そこからライラは動かなくなった。
そして、横から、「奏音ちゃん…どうする?」と声が聞こえた。

「どうするって…何…?」

「だ、だって…あの人…殺しもしてないし…別に…捕まえるとかさ…それだけで良いんじゃないかな…?」

アズりんが少し躊躇しながら言う。でも、実際そうだ。
見る限り、あの人は殺しもしていないし、話をすれば、分かってくれそうな雰囲気だってある…

じゃあ、それなら私がやるべきことは…

私は、走って階段を登り、そして、ショッピングモールの4階へダッシュする。
アズりんも一緒に向かった。

一階の方では、「おい?死刑執行人(エグゼキューショナーズ)が倒しに行ったぞ!!!」という声が聞こえてきたが、そんな声を気にする余裕もなかった。

そして、4階にたどり着くと、そこには体育座りで蹲っていたライラちゃんの姿が…

「ライリーちゃん?」

私は心の閉ざした少女に優しく語りかける。

「どうせ、怪人とか…化け物とか…そう言うんでしょ…?もう良いよ…飽き飽きだよ…」

背中を壁に付け、持っていたナイフを握る。
アズりんは念のため、後ろで待機。

もしもの時はソードブレイカーを撃って攻撃を防いでくれる予定。

「もし良かったらさ…ライリーちゃん…過去に何があったか教えて欲しいな…私…力になりたいんだよ…」

「…………」

ライリーちゃんは目を向けず、代わりに地面を見つめる。
多分、7歳くらいだろうか…
こんな小さな子が、こんなナイフを持って、自分の正しさを証明するなんて…

「私…昔、ある実験室で生まれたの…
その実験室では、人と怪人の交配実験が行われてて…私は…オスの怪人と女性の人から生まれたの…
私以外の兄弟も幾つか生まれてはいたんだけど…
ある子は、頭が歪んでて、ある子は双子なんだけど、頭が繋がってて…ある子は手足が元からなくて…それでも良い方だったみたいで、本当は死んじゃうことがほとんどで…
私はなんの障害もなく生まれてきた個体だったんだ…
でも、それでも私はいろんな実験に連れ出されて…人間として扱われなかったし…
何より、この怪物!!!って言われて少しできないことがあると、叩かれたり…蹴られたり…電気を流されたりもした…
私は同じ見た目なのに…なんでこんなにひどいことされなきゃならないんだろう…って思いながら生きてた…
それで、結局その研究所は今の私の仲間たちに崩壊させられたんだけど…
そこから出た後に…気が付いたの…
私と同じくらいの歳の子は…いつも幸せそうな顔をしていて、
羨ましかった…私も笑いたかった…
でも、私みたいな怪物は…そんな自由が効くわけでもなくて…
私の仲間に勧められて学校も行ってみたけど…
私の人外に等しい怪力と速さで、友達からいじめを受けて…
散々怪物って言われ続ける日々が続いて…
学校行くのやめちゃって…
私…もう…どうして良いわかんないよ…
どこに行っても怪物って言われ続けて…迫害されて…こんな世の中を変えるために私の仲間達は動いているのに…怪物って言われたくないからこうやって活動してるのに…こんな風にいつまで経っても武力でわからせてたら…いつになったら私の事を人間って行ってくれる人が出てくるか…もう…わかんないよ!!!!!」

連なった悲しい悲劇と人生譚。
こんなに小さい子が私よりも闇を抱えて生きている。
それなのに、私は…こうやって怪獣を倒してちやほやされて…
それだけて良いの!?

良くないよね…

「分かった…!!じゃあ、ライリーちゃんを人間だって言ってくれる人が多くなるように、お姉ちゃん頑張るよ!!」

「え?」

「ライリーちゃんはちゃんとした人だよ!!大丈夫!分かってるもん!!!」

「え?でも…私の怪力…怖くないの?」

そりゃあ…怖いよ…今でも手が震えそうだけど…
でも、それでも、こんな小さい子を泣かせちゃうほどが…よっぽど怖い。

迷わない。この子は人間だし、私だって怪獣を倒せるような女の子だけど、それでも人間だ。

対して変わらない。

「ちょっと力が強いだけでしょ?人間同士じゃない?それってさ。」

「か、奏音ちゃん……」

我慢していたのだろうか…蹲っていたライリーちゃんが膝立ちをして涙を流しながら私に寄ってくる…

「大丈夫だから。安心して。私がついてるよ。」

私も、ライリーちゃんを優しく抱きしめると、胸の中で泣くライリーちゃんの頭を優しく撫でる。

霧矢くんも、こんな気持ちだったのかな…
放って置けなくて、自分が何かしなくちゃいけなくて、そして、守りたくて…

そう思って、私の頭を撫でてくれたのかな?

だとしたら…霧矢くんは良い人だね。

「うぐっ…うう…うあっ…ああぁ…ううっ!!!!!!!!!」

「泣いて良いから。子供の時くらい…いくらわがままいっても良いんだからね。」

「うわああああああああああ!!!!!!!!!!」

魔法のドレスにライリーちゃんの鼻水や涙がこぼれ落ちて、シミができる。
それでも私は、ライリーちゃんをもっと抱きしめる。
抱きしめて、もう、離れないようにする。

安心して欲しい。
ここに味方がいることを、分かって欲しい。