ここが冒険者ギルドらしい。建物の中には色んな人がいる。
ガラの悪い男の人や男っぽい女性、私よりも年齢が低そうな男女もいて驚いた。
そう思っていたよりも雰囲気が良かったからである。
私とグランは受付のカウンターへ向かって歩いていた。
その間グランは年配の冒険者さんたちに色々言われている。
それを聞き私は顔から湯気が出そうになった。
私とグランが恋人同士なんて言うのですもの。でも私は、それを否定するつもりなんてない。
でもグランに否定された。途中で知り合って困っていたから冒険者ギルドに連れて来ただけだって……確かに逢ったばかりだけど……複雑だなぁ。
そうこう思っていると、いつの間にかグランは受付のカウンターに居て私を呼んでいる。
私は慌ててグランの居る受付カウンターへ向かった。
「ボーっとしてどうしたんだ?」
受付のカウンターまでくるとグランにそう言われる。
「あーうん、なんかイメージと違ってたから……色々考えてたの」
「そうか……まあ仕事が商業よりも庶民寄りだから請け負う者は曰く付きのヤツなんかもいる」
「じゃあ……誰でも登録できるのですか?」
そう問うとグランは首を横に振った。
「登録は十歳からだ。まあ偽名でも登録できるがな」
「そうなのですね……誰でも仕事ができるのはいいことだと思いますわ」
「そうだな。商業ギルドは色々制限があるみたいだが」
そう言いグランは無作為に一点をみつめている。
「それだけ信用を大事にしているという事なのでしょうけど」
「それだけじゃないだろうな。まぁこれは、あとで話す」
そう言われ私は、コクッと頷いた。
「クスッ、話は終わったかしら?」
その声を聞き私はカウンターの反対側に居る女性をみる。
グランも慌てて、その女性をみた。
「あっ、サリュアさん……いつからそこに居たんだ?」
「グランが来てから、ずっと居るんだけど」
そう言われグランは焦っているみたいだ。
「まあいいわ。それよりも今日は彼女をみせびらかしに来た訳じゃないわよね」
「…………彼女……いや、メルナとはそんな関係じゃない」
「そう? それで今日は、なんの用なの?」
サリュアさんはそう言い私をみて睨んでいる。
私……何かしたの? 全然……記憶にないのだけど……。
「用があるのは、メルナだ。冒険者登録をしたいらしい」
「そういう事なのね。じゃあ待ってて書類を持ってくるわ」
それを聞き私は頷いた。
グランにまた否定された。でも、いつでも逢える。逢えなくなるよりはいいよね。
そう思いグランに視線を向ける。
「どうした? トイレか?」
「ハッ!? 違いますわ!」
私は恥ずかしくなりグランの頬を、パシッと平手打ちした。
グランは、よろけて床に尻餅をつく。そして痛かったらしく頬を摩っている。
「ツウ……いきなり叩くことないだろ」
「あっ、ごめんなさい。でも……」
やってしまった……でも、そんな恥ずかしいことを公衆の面前で言うんですもの。
「今のは、グランが悪いわよ。女性に対して配慮が足りなすぎます」
そう言いサリュアは、グランを睨んでいる。
「ん? もしかしてトイレって言ったことで叩かれたのか?」
グランはそう言いながら立ち上がり私をみた。
「そ、そうね。でも……グランは悪気がなかったのですもの。それに……これから、なるべくグランの発言に慣れていきますわ」
「悪い……オレも気をつける」
そう言うとグランは、なぜか私から目を逸らし俯いている。
もしかして……嫌われたの? どうしましょう……でも、まだ分かりませんわよね。
「ゴホンッ! イチャイチャは、そのくらいにしてもらえます?」
「い、イチャイチャって……別にしてない。それよりもメルナの登録だろ!」
「そうね。じゃあ、この書類に記載してくれるかな」
そう言われ私はグランとサリュアさんに聞きながら書類に記載していった。
私は書類に記載を終えるとサリュアさんに渡した。
受け取ったサリュアさんは書類をみている。その後、登録カードに記載すると私にくれた。
「綺麗な文字を書くのね。もしかして……元は貴族とかかしら?」
「えっ!? いえ、全然……ぜーんぜん違いますわっ!」
驚き、そのせいか私は声が裏返っている。
だけど鋭いと思った。恐らく色んな人たちをみて来ているため分かるのかもしれない。
「そう? じゃあ今まで文字を書く機会が多かったのね」
「はい、代筆をしていたこともあります」
「それは凄いわ。もしそういった仕事が入ったら真っ先に紹介するわね」
なんでしょう?……さっきとは明らかに違う態度。ですが悪い意味でではありませんし……大丈夫ですね。
「ありがとうございます。力仕事よりも、そういったものの方が助かりますわ」
「そうなのね。あーそうそう、メルナセリアは冒険者ギルドって初めて?」
「はい、真面に働くこと自体が初めてです」
それを聞きサリュアさんは説明し始めた。
サリュアさんの説明では冒険者ギルド共通のランクがあるらしい。
スペード♠、クローバー♧、ダイヤ♦、ハート♡、スター☆彡と云うランクがある。最初はスペードから始まり最高ランクがスターだ。
という事は私は現在スペードである。
それと依頼は直接受付で聞くか掲示板をみて受ける。ただ希に、その人にあった仕事があると声をかけてくれるみたい。
これは助かるわ……探す手間が省けるものね。
「……こんな感じよ。それで今日は、どうするの?」
「そうですねぇ……住む所も探したいけれど、その前にお金を稼がないとですよね?」
「もしかして家出?」
そう言われ私は「……」一瞬、言葉を失った。
「い、家出じゃありません。まぁ……似たようなものですが、今は家に帰れないのです」
「なるほど……じゃあ貸家なら月払いで安い所を知っているけど」
「貸家ですか……安いって、どのくらいなのです?」
私は気になり聞いてしまった。でも安いのであれば屋敷を購入するまでの間、宿屋に泊まっているよりもいいかと思ったのだ。
「家にもよるけど金貨二枚から十枚って所かしら」
「銀貨ではなくて金貨なのですね。因みに仕事をすると、だいたいどのくらいになるのでしょう?」
「依頼内容にもよるわね。でもほとんどが銀貨払いが多いわ」
それを聞き私は悩んだ。銀貨もチリも積もれば金貨相当になる。一ヶ月、その分の仕事を熟せばいいだけだ。それに安い所を探せばいいのだから。
それと今なら金貨が結構ある。それなら……そうしよう。
「どこに行けば借りることができますか?」
「それならグランが知ってるから案内してもらうといいわよ」
「お、おお……オレが案内するのか?」
なんかグラン……迷惑そうな顔をしてる。私と一緒に行動するのが嫌なのかな?
そう思った瞬間、なぜか涙が溢れでる。
「ちょ、なんで泣いてるんだ?」
「グラン……貴方が嫌な顔をしたからでしょ!」
「えっ!? そんなつもりなかったんだけどな。だけど……ごめん、悪かった」
グランは頭を下げ謝ってくれた。
「ううん……大丈夫よ。それにグラン、無理に私に付き合わないでね」
「あーえっと……無理に付き合ってる訳じゃない。ただこれから仕事をしないと」
「そういう事なのね。その仕事って私もできるのかしら?」
私はそう聞きグランとサリュアさんをみる。
「どうかしら? 確か今日の仕事って隣村への荷物の配達よね」
「ああ、外は魔物や魔獣がでるからな。戦闘経験がないと、つらいだろ」
「魔法程度なら使えますわ」
そう私が言うとグランは難しい顔をした。
「魔法か……杖か補助的な魔道具は持ってないのか?」
「ありませんわ……ですが購入すれば大丈夫かと」
「そうだな……サリュアさん、メルナも受けても大丈夫か?」
そうグランが聞くとサリュアさんは、コクッと頷きカウンターの奥に向かう。
その後サリュアさんは依頼書を持って来て説明してくれた。
それを聞き終えると私は、別に持ってきた書類にサインをする。
そして、そのあと私はグランとギルドを出た。
ここは武器や色々な装備品などが売っている店だ。
私はグランとこの店の中をみて歩いている。そう私が使う武器を探しているのだ。
「メルナ、杖の方がいいか?」
「んーそうね……そう云うのに関しては余り詳しくないのよ」
「そうか……じゃあ、とりあえず杖を先にみよう」
そう言われ私は頷いた。
私は杖の前までくると種類の多さに驚愕する。
「す、凄いですわ! こんなに色んなタイプの杖があるなんて」
「本当に初めてなんだな」
「ええ、魔法の勉強はしたのですが……実戦は初めてなのです」
そう私が言うとグランの顔は青ざめた。
「…………ほ、本当に大丈夫か?」
「多分……大丈夫だと思います。ですが最初は弱い魔物や魔獣を相手に試したいのですが」
「そうだな……そうするか。じゃあ武器が先だな。もし武器じゃなければ魔道具でもいい」
そう言われ私は頷いたあと杖やステッキ、魔道具などをみて歩く。
「やっぱり杖がいいですわ」
なぜか私は杖の方がカッコいいように思えた。そのため再び杖のコーナーに向かう。
杖コーナーの所までくると手に取ってみる。
「この杖って……もしかして殴れます?」
「あ、ハンマーが付いているヤツか。それなら接近戦に使える。魔法を付与して攻撃もできたはずだ」
「これシンプルですが私には使いやすそうですわ」
そう言い私は軽くハンマー付きの杖を振ってみた。
思ったよりも軽く持ちやすい。だけど地味だと思った。
「装飾しても大丈夫かしら?」
「杖にか? どうだろうな……店員に聞いた方がいいんじゃないのか」
それを聞き私は店のカウンターの方へ向かう。
そのあとをグランが追ってくる。
カウンターの所までくると、かなり年配の男性が立っていた。グランの話では、ここの店主さんらしい。
杖を店主さんにみせると私は装飾をしても大丈夫か聞いてみる。
それを聞いた店主さんは最初、ビックリしていたが簡素な物であれば大丈夫だと言ってくれた。
私はそう言われこの杖を買うことにする。金額も銀貨五十枚で思ったよりも安かった。
バッグからお金を出そうとするとグランは無言でカウンターの上に銀貨五十枚を置く。
「グラン……もしかして買ってくれるのですか?」
「あ……うん、そうだな。メルナは今のところ金を使うな……屋敷を購入したいんだろ。それなら貯めた方がいい」
「嬉しいですわ……そうですね。グラン……ありがとうございます」
私はそう言い、ニコッと笑った。
その後、私はグランへ視線を向ける。微かにグランの顔が赤く染まっているようにみえた。
私はどうしたのかと思ったが具合を悪くしているようにみえなかったので何も言わないでおくことにする。
「お……おお、問題ない。じゃあ……仕事をする前に試しに使ってみるか?」
「そうですね……そうしますわ」
「ああ……そういえば装備も整えた方がいい」
そう言いグランは適当に私に合いそうな装備を持ってくる。
「必要そうなの見繕ってきたが……どうだ?」
「ええ、いいと思いますわ」
それを聞きグランは、その装備一式を持ってカウンターへ向かった。
またグランが買ってくれました。でも、いいのでしょうか?
そう思い私はグランをみつめる。
「買ってきた。とりあえず着替えが先だな」
「そうですね。本当に何から何までありがとうございますね」
「だから大丈夫だ。但しオレが買える物であればな」
グランにそう言われ私は嬉しくて笑った。
その後グランは私の装備一式を持って「行くぞ」と言い店の外へ出ていく。
私は杖を持つと店主さんに挨拶をしたあとグランを追いかけた。
オレはメルナが泊まっている宿にいる。そう部屋の前の通路側で壁に寄りかかりながらメルナを待っているのだ。
まだか? まさか装備の仕方が分からないなんて言わないよな。なんか不安になってきた。
そう不安に思い扉の前を行ったり来たりする。
流石に部屋の中に入れないしな……信じるしかないか。
そう考えオレは扉をみつめた。
――場所はメルナセリアの居る部屋に移る――
「確か、こんな感じでいいのですよね?」
私は姿見鏡で確認しながら着替えていた。
んー装備をつけると地味ですわ……ですが身を護るため仕方ないのですよね。
「あとは髪を軽く結っておきましょう……邪魔になりますものね」
鏡台の前の椅子に座ると髪を整え始める。
楽しみですわ……グランと一緒に魔物を倒す。まあ魔物を倒すのは、どうでもいいけど……。
グランのそばに居られるだけでいいのですから。
私はグランの顔を思い浮かべた途端、体が熱くなった。
「ああ……グラン……。早く仕度を済ませないと」
急ぎメイクをし直すと髪を下の方で結い整える。
最終チェックが終えると私は立ち上がり杖と必要な荷物を持ち部屋を出た。
★♡★♡★
部屋を出た私はグランを真っ先にみる。
「お待たせしてしまって、ごめんなさい」
そう言うもグランは、ジーっと私をみて顔を赤くしていた。
「グラン、どうしたのですか? もしかして私が遅かったから怒っているの」
「ハッ! いや、違う。す、凄く似合ってるなと思ってな」……――
――……(顔だちのせいなのか……スタイルのせい? 余りにも素敵すぎて戦乙女のようだ。いや、剣はもっていなかったな……)
「そうかしら! 嬉しいですわ……ありがとうございます」
ほわぁ~良かったですわ……それに、わ~い褒められてしまいました。あとは実戦でですよね。楽しみです~。
「ああ……それよりも急ごう仕事の方もあるしな」
そう言いグランは私に背を向けて歩き出した。だけど……なぜか歩き方が、ぎこちないのはどうしてなのかなと思う。
私はそう考えながらグランのあとを追いかける。
★♡★♡★
ここはファルミゴの町の外。そしてファルイオス草原だ。
そういえば徒歩で町の外に出たのは初めてでしたわ。
そう思い急に怖くなってくる。
「メルナ、顔色が悪いみたいだけど……大丈夫か?」
「は、はい……多分。ただ……馬車に乗らずに外に出るのが初めてでしたので」
「…………馬車って……なるほど……やっぱり、やめるか?」
そう言われ私は、ブンブンと首を横に振った。
「いえ、自分の力で生きると決めたのですもの……やめるなんて選択肢はありませんわ」
「あ、ああ……そうか。じゃあ無理はするなよ」
「はい、駄目だと思ったらグラン……サポートをお願いしますね」
そう私が言うとグランは、コクッと頷き真剣な表情になる。
その顔が余りにも素敵すぎて融けてしまいそうになった。
その後グランは先へ向かい歩き始める。
そのあとを私は追った。
「うわぁ~……沢山のスラスラが居るのね。プルンプルンしていて美味しそう」
そう言い私は、目の前のスラスラを触ろうとした。
「ハッ!? 駄目だ素手で触るな!」
「えっ!?」
そう言われ私は手を引っ込める。
「フゥー……危なかった。スラスラは毒があるから素手で触るな」
「そうなのね……こんなに可愛いのに」
「魔物や魔獣は見た目で判断するな。弱い魔物や魔獣ほど毒のようなものが体内に備わっている」
それを聞き私はなるほどと思った。
凄いですわ。弱いから身を護る術を備わってるなんて……。
そう思いながらスラスラを見据える。
「本当にスラスラを倒すの?」
「ああ、まずは弱い魔物で試した方がいい」
「でも……無抵抗なスラスラを倒すだなんて私にはできませんわ」
そう私が言うとグランは呆れた顔になった。
何か私……まずいこと言ったのかしら?
「メルナ……スラスラはな、このまま放っておけば増え続けるんだ」
「あーそうなのね。ある程度、駆除しないと大変なことになる」
「そういう事だ。それで試しに杖で攻撃してみろ」
そう言われ私は杖を構える。
「杖でスラスラを叩けばいいのですよね?」
「ああ、ただ思いっきり叩かないと分裂するから気をつけろ」
グランはそう言い私の後ろへ移動した。
私は頷くと、スラスラを杖で思いっきり叩く。
するとスラスラは、パンッと弾けて消える。そして地面には魔石が落ちた。
「た、倒せたわっ!」
「そうだな……最初にしては上出来だ」
「ありがとうございます。そういえば落ちてるのって魔石よね?」
そう聞くとグランは、コクッと頷く。
「ああ、魔物は魔石やアイテムなどを落とすんだ。でも魔獣は落とさない。その代わり毛皮や肉を解体すれば金にすることができる」
「……という事は魔物って魔法でつくられたのですか?」
「多分そうだと思う。ただ誰がつくったのか分からないけどな」
それを聞き私は不思議に思い首を傾げる。
「誰がつくったって……神さまですよね?」
「…………」
なぜかグランは黙ってしまった。
私……何か悪いことを言いましたでしょうか?
「神か……そんなものが、この世界に存在するのか? オレは絶対に信じない」
そう言いグランは空を見上げ睨んでいるようにみえた。
そう思う何か遭ったのでしょうか? グランがこんなに言うのですから余程のことなのでしょうね。
そう思い私はグランをみつめる。
「そうですね……信じるか否かは人それぞれですもの」
「メルナ? お前は信じるのか」
「ええ、信じますわ。だって、こうやってグランと出逢えたのですもの」
言ったはいいが恥ずかしくなった。
どうしましょう……なんでこんなことを言ってしまったのでしょう。
「…………そうだな。神が居るかどうか分からない……だが、メルナの言う通りかもしれない」
「グラン、少しは信じました?」
そう問いかけ私はグランの顔を覗き込んだ。
「メルナ…………」
いきなりグランは私を自分の方に引き寄せ抱きついた。
「な、何をするのですか?」
「黙っててくれ……少しの間だけでいい、こうして居たいんだ」
そう言われ私は頷くが顎がグランの肩にあたってしまう。
えっと……どういう事ですの? 何もする訳でもない。ですが……グランの息が荒いように思える。
それよりも……このままじゃ生殺しですわ。こんなにも胸の鼓動が鳴りやまない……いえ、息が苦しいです。
ハア、ハアハア……なんでこんな所で……体が熱い……。
いつの間にか私は腰へと手を回しグランの首と肩の間に自分の顔をうずめていた。
――……時は少し遡る。
オレはメルナの後ろでみていた。
「た、倒せたわっ!」
「そうだな……最初にしては上出来だ」
「ありがとうございます。そういえば落ちてるのって魔石よね?」
そう言いメルナは満面の笑みを浮かべる。
綺麗なうえに可愛い……駄目だ……堪えられない。でも……今の関係が壊れるのは嫌だ。
そう思いながらオレはメルナに説明した。
「ああ、魔物は魔石やアイテムなどを落とすんだ。でも魔獣は落とさない。その代わり毛皮や肉を解体すれば金にすることができる」
「……という事は魔物って魔法でつくられたのですか?」
「多分そうだと思う。ただ誰がつくったのか分からないけどな」
そう言うとメルナは首を傾げる。
オレ……何か悪いこと言ったか?
「誰がつくったって……神さまですよね?」
「…………」
そっちか……でも神って……。
「神か……そんなものが、この世界に存在するのか? オレは絶対に信じない」
そんなもの……居る訳がない。もし居るなら…………オレはこんな運命を辿っていないはずだ。
「そうですね……信じるか否かは人それぞれですもの」
「メルナ? お前は信じるのか」
「ええ、信じますわ。だって、こうやってグランと出逢えたのですもの」
メルナはオレの考えとは違う。でも……確かにメルナの言う通り偶然だとしても出逢えた。
でも……それは神のお陰なんかじゃない。
「…………そうだな。神が居るかどうか分からない……だが、メルナの言う通りかもしれない」
「グラン、少しは信じました?」
神の存在は信じられない。でも……オレにとっての女神はメルナだ。
「メルナ…………」
そう思った瞬間オレは、メルナを抱きしめていた。
「な、何をするのですか?」
「黙っててくれ……少しの間だけでいい、こうして居たいんだ」
オレは……何をしている? でも堪えられない……メルナが愛おしくて。だけど、これ以上先に進めば関係が壊れる。
好きだ。ただ、この言葉を発したら……どうなる?
メルナから、いい匂いがする……体が熱い。息苦しい……首筋ぐらいならキスしてもいいか?
でも……それで嫌われたら、どうする? だけど……無理だ。メルナが、なぜかオレの腰に手を回してきた。
それだけじゃない……オレの首と肩の間にメルナの顔が…………唇があたってる。これって……いいってことなのか?
嫌がっている様子はない。でも…………。
「キャアー、グラン首筋に虫がぁ~!?」
そう言いメルナはオレを突き飛ばした。
そのせいでオレは尻餅をつき一瞬、何が起きたのか分からず呆然とする。
その後オレは我に返った。
「……虫?」
そう言いオレは首筋の虫を払い除ける。
「なるほど……」
ムッとしオレは、その虫を渾身の力を込めて足で踏みつぶした。
う……クソッ、なんで間が悪いんだ! って……やっぱり神なんか信じるもんか。
そう思いオレは泣きそうになる。
「グラン……あーえっと、ごめんなさい……突き飛ばしてしまって」
「そ、それは……いや大丈夫だ。オレこそ、いきなり抱きついて悪かった」
「いえ……それは問題ありませんわ。もしかして何か嫌なことでも思い出したのですの?」
そう言われオレは返す言葉に困った。流石に襲いたくなって抱きしめたなんて言えない。
なんて弁明すればいいんだ! いや……どう誤魔化せばいい?
そう思いオレはメルナをみつめる。
「グラン、言いたくないなら大丈夫ですよ。誰だって言えないことの一つや二つありますもの」
メルナ……やっぱりオレにとっての女神はお前だ。いや神が本当にいたとしても、オレはお前しか認めない。
「すまない。そうだな……」
「そうですよ……それよりも、時間がなくなりますわ」
「そうだな。じゃあ次は魔法の攻撃の確認だ」
そう言いオレとメルナは違う場所へと移動した。
私はグランと一緒に町より少し離れたキルジアの森の手前まできた。
「……ウッ、大きな虫が沢山います」
目の前には足の沢山生えた気持ち悪い大きな虫が至る所にいっぱいいて泣きそうになる。ううん……吐きたくなった。
「そういえば、さっきも虫のこと嫌がってたな」
「ええ、どうしても虫だけは無理なの」
「んー……そうか。じゃあ魔法で焼き払うか? 魔法攻撃をみるのにも丁度いいし」
そう言われ私は使える魔法に炎系があったか思い返してみる。
「炎系……多分、覚えてませんわ」
「……そうか。じゃあ何を覚えてるんだ?」
「そうですね……氷系なら大丈夫だと思いますわ」
そう私が言うとグランは悩み始める。
氷系じゃ何か問題があるのかしら?
「氷か……まあそんなに強力な魔法じゃなければ大丈夫だろ」
「もしかして氷系じゃ駄目なのですか?」
「いや、駄目じゃない。ただ氷系だと魔法の種類によっては、この辺一帯を凍らせてしまう」
そういう事なのですね。ですが弱い氷系の魔法って? とりあえず弱いような魔法を使えばって言ってましたし……そうしますか。
「そうなのですね、分かりましたわ」
「本当に大丈夫か?」
グランは心配そうに私をみている。
心配してくれてる。わーい、嬉しいですわ。
「ええ、多分……ですが。そんなに強力な魔法を覚えていないと思いますので」
「そうか……それならいいが」
「それでは、やりますわね」
そう言い私は杖を構えた。
グランは私から少し離れた位置に移動する。
それを確認すると私は詠唱し始めた。
「氷の精霊 冷たき世界 極限にまで凍り鋭き物 無数なる刺 この一帯に降り注ぎ 対象物を攻撃せよっ!!」
《ロッツオブアイシクルっ!!》
そう言い放つと私は杖を掲げる。すると空に大きな魔法陣が展開された。
「ちょ……待てっ! その魔法は……」
はて? グランは何を言ってるのでしょうか……よく聞こえませんわ。
そう思い私は魔法が展開されるのを待つ……。
★♡★♡★
メルナ……聞こえてないのか。どこか逃げる所は? メルナを早く、その場から遠ざけないと……。
そう思いながらオレはメルナの方へ駆けだした。
そばまでくるとメルナを抱きかかえる。
「グラン? どうしましたの」
「逃げる……」
「えっ!?」
そう聞かれるも返答する暇なんてない。オレはメルナを抱きかかえながら駆け出した。
待ってくれる訳もなく魔法陣が他にも無数に増え始めている。
なんて魔力なんだ。メルナ……本当に魔法を使うのが初めてなのか? まあ……そのことは、あとで聞くか。今は、あの魔法陣の範囲から遠ざかるのが先だ。
そう思っていると魔法陣の展開が全て終わり、そこから無数の氷柱が降り注ぎ始める。
「クソッ! これをどうやって防げって云うんだよ」
「ヒッ……え、ええと……こんなに凄い魔法だなんて思いませんでしたわ」
そう言いメルナは今にも泣きそうだ。
「知らないで使ったんだよな?」
「はい、勿論です」
「はぁ……とりあえずメルナはできるだけ遠くに逃げろ」
オレはメルナを下ろした。
「分かりましたわ。ですがグランは?」
「オレは森が破壊されないように魔法を無効かしてくる」
「大丈夫ですの?」
そんな悲しい顔でみつめないでくれ……迷ってしまうだろうが。
「大丈夫か分からないが……やれるだけのことをしてくる」
「私のせいで……ごめんなさい」
「それはいい。それよりもここから離れろ。この頭上にも魔法陣が展開されている。いつ氷柱が降り注ぐか分からないからな」
そうオレが言うとメルナは頷き駆け出した。
オレはそれを確認すると大きな魔法陣がある方へと駆け出す。
氷柱を回避しながらだと、どこがいい?
そう思考を巡らせながらオレは巨大な魔法陣へと向かった。
私はひたすら魔法陣が展開されていない所へと逃げていた。
なんてことをしてしまったのでしょう。こんなに凄い魔法だなんて思わなかったのです。
グラン……大丈夫でしょうか? 心配です。私のせいで危険に晒してしまいました。
そう思っていると涙が溢れ出てくる。
つらい……胸が痛いです。もっと魔法の知識を身に付けていれば……こんなことにはならなかったかもしれないわ。
走りながら空を見上げた。
ここには魔法陣がないですわ。
ないことを確認した私は立ちどまりグランが居るだろう方をみる。
「グランの姿がみえない。ですが恐らくあの辺ですよね?」
そう言い私は手を組みグランの無事を祈った。
★♡★♡★
「クソオォォー……中心に行くまでに死にそうだ!?」
オレは降り注ぐ無数の氷柱を避けながら大きな魔法陣の中心へと向かっている。
氷柱を避けきれない。ここにくるまで結構な数の氷柱にあたった。クッ……流石にキツイな。装備をしてなかったら間違いなく死んでるぞ。
そう思いながら大剣を振り降り注ぐ氷柱を薙ぎ払っていった。それでも一部の氷柱がオレの体にあたる。
あーイテェー……なんでオレがこんな目に遭わなきゃならない。……とはいえメルナを責められないよな。わざとやった訳じゃないし……。
息を切らしオレは、ヤット大きな魔法陣の中心にくることができた。手をみると腕から伝い血が大量に付いている。
「早く終わらせないと……オレが保たないぞ。これ……」
そう言いオレは氷柱を避けながら大剣を上に翳した。
「聖なる大剣 我、選ばれし者なり この声に応え展開されし魔法を無効かされたしっ!!」
《グランドホーリーディセーブルっ!!》
そう言い放つと大剣が激しく発光する。それと同時に大剣から光が放たれた。
クッ……氷柱を避けながらだと……狙いが定まってない。だが……なんとか魔法陣にあたったみたいだ。
大剣から放たれた光は魔法陣にあたり激しく発光する。
――ドッガアァァーンっ!!――
途轍もない音が周囲に轟いた。それと同時に魔法陣が徐々に消えていく……。
「やったのか……」
それを確認するとオレは安心したせいか地面に膝をつき倒れ込んだ。
メルナ……大丈夫だよな。
そう思い地面に横たわりながらメルナが居るだろう方向をみる。
こっちに向かってくるのは……メルナか?
虚ろな目でオレは向かってくるメルナをみていた。
★♡★♡★
とんでもない音と魔法陣が消えて来ていたため私はグランに何かあったのかと心配で駆けだす。
「グラン……」
大丈夫でしょうか? 早くグランの所に向かわなければ……。
そう思い私は泣きながら走っている。
グランのそばへ駆け寄った私は状況が最悪だと悟り、どうしたらいいか思考を巡らせた。
このままじゃグランが死んじゃうわ。なんとか治療しなければ……何かありませんでしたでしょうか?
そう考え私はグランが何か持っていなかったかバッグを探ってみる。
「これは確か傷にいい薬草ですわ。あとは……」
私は傷にいい薬草の他に体力回復ドリンクをみつけた。
その後、応急処置として傷の酷い所に薬草を付着させる。
……男性の裸。えーっと……これは処置ですし……仕方ないことですよね。
そう思い私は興奮しながらも耐え、グランの服を脱がせながら傷が酷い部位に薬草を貼っていった。
体力回復ドリンクを飲ませませんと……。
私はグランの口元に体力回復ドリンクを持っていき飲ませようとする。だが飲んでくれない……。
どうしましょう……人を呼びに行くにもグランを一人ここに置いていくことになるわ。
「これしかありませんよね……」
体力回復ドリンクを口に含んだあと私は、グランへ口移しで飲ませる。
グランが飲んでくれた。あーえっと……ただ口移しで飲ませただけなのに顔が熱いですわ。
私はグランの顔をみながらしばらくボーっとしていた。
★♡★♡★
「……」
柔らかい唇の感触……もしかして……これってメルナなのか? メルナがオレに口移しで何か飲ませてくれた。
体が楽になって来てる。ってことは体力回復ドリンクか。
……でも、なんで口移しで飲ませてくれたんだ? ただ単にオレが飲めなかったからか? 多分そうだろうな。
でも……それだけでも嬉しい。キスとまではいかないがメルナの唇の感触が……。絶対この感触は忘れないぞ。
そう思いオレは、メルナとのことを思い浮かべ妄想に浸っていた。
オレは現在メルナの膝の上に頭を乗せている。
ああ……やわらかな膝だ。それだけじゃないオレの頭を撫でる手の指は細くて可愛い。このまま……ずっとこうして居たいんだけどなぁ。
……そういえば仕事しないと。こんな状態で起きれるのか? だが穴をあける訳にいかないな。
そう思いオレはなんとか重い瞼を開いた。
「グラン、目が覚めたのですね」
「ああ、起きないと」
そう言いオレは起きようとした。だが立とうとした拍子にメルナの方に、よろけてしまい押し倒す。
「……」
「……」
柔らかくて、プニプニの胸……ハッ!? オレは何をやってるんだ!
オレはやってしまった。偶然とはいえ、メルナの胸を……。
「ご、ごめん……そんなつもりはなかったんだ」
そう言いオレは慌ててメルナから離れる。
★♡★♡★
あーえっと……グランは、わざとじゃない。でも私は、そのまま先に進んでも良かったのですが。だけど……グランは、その気がないのですよね。
「グラン、大丈夫ですよ。よろけて私の方に倒れただけですもの。ただ胸を触られたのは、流石に驚きましたわ」
「あー悪かった。偶々手がそこにあたって……」
そう言いグランの顔が赤くなった。
グラン……これ以上言わない方がいいですよね。だってグランは触りたくて私の胸を触った訳じゃないのですから。
「そのことは気にしませんわ。それよりも怪我の方は大丈夫なのですか?」
「いや、まだ完全じゃない。だが……仕事をしないと」
「そうかもしれませんが……無理をして怪我が酷くなったら大変です」
諦めてくれるかしら? こんな酷い怪我をしているのに仕事だなんて無理だわ。
それに怪我をしたのだって私のせいですし……なんとか止めませんと。
「このぐらいは大丈夫だ。それに荷物を運ぶ手伝いをするだけだしな」
「それでも傷が開いたら大変ですわ」
「心配してくれて、ありがとうな。そうだな……メルナも同じ仕事をする。それなら傍に付き添っててくれ」
えっ? 確かに一緒に仕事をするってことでしたけど。でも……そうですね。付き添っていれば傷の手当てもできます。
「分かりましたわ。ただ無理はしないでくださいね」
「ああ、勿論だ。じゃあ行こうか」
そう言いグランは、ゆっくり立ち上がる。
そのあと私は立ち上がった。
「歩けます?」
「走らなければ大丈夫だろう」
「そう……なんか申し訳ありませんわ。グランが、こうなったのも私のせいですもの」
そう言い私はグランの背中をみる。
「そのことは気にするな。メルナは、わざとやった訳じゃない」
グランは振り返り優しく笑いそう言ってくれた。
その笑顔をみた私の胸は、ドクンドクンと激しく鼓動が高鳴ってくる。
ああ……やっぱりグランは素敵ですわ。カッコいいうえに素敵な笑顔……こんなに理想の相手の傍に居られるなんて贅沢すぎますわよね。
「どうしたんだ? 顔が赤いぞ」
「ハッ! いえ、なんでもありませんわ。あーそうそう……仕事、急ぎましょう」
「お、おお……そうだな」
なんとか誤魔化せましたわよね?
そう思い私はグランと話をしながら町へ向かい歩いた。