「私がラクリウス様を怒らせた? 言っている意味が分かりませんわ」

 怒らせた理由を言えば恐らくラクリウスは私のいう事を理解し納得するわ。でも、それをしたくない。
 もうラクリウスと一緒に居たくないのですもの。

 「じゃあ……大事にしていた手紙を破ったこと。それと学園に通っていた時に、もらったペンダントを窓から投げ捨てたのも全て怒らせるためではないと」
 「そ、それは…………」
 「おい、それって……どっちも女からか?」

 そうよ……全て女性からの贈り物。それを私がみていない所でニヤニヤしながら何時もみていた。いえ、それだけではありませんわ。
 ラクリウスは私に隠れて女性と逢っていた。私を迎えに来たってことは、それらをなかったことにするつもりなのよね。でも今更……遅いのよ。
 既に私は貴方を見限っているのだから……。

 「勿論だ。メルナセリア嬢と婚約する前に付き合った女性からもらった物。それらを全て破かれたり捨てられた」
 「最低だな。なんで何時までも残しておいた? そもそも付き合っていて、なぜ分かれたんだ」
 「好きでも叶わない恋もある。結婚など家同士の決めごとだ。親が反対すれば結婚などできない」

 そうなのよね……私も、それが当たり前だと思っていたわ。だから結婚するまでの辛抱だと我慢していたのよ。

 「貴族か……なるもんじゃない。自分が好きになった女と結婚できないならな」
 「私も、そう思うわ。もう……貴族なんていや。あんな思いをするくらいなら……家を捨てて平民になった方がマシよ」
 「そのために俺を怒らせたのか?」

 その言葉を聞き私は心底から呆れ返ってしまった。

 ★♡★♡★

 本当にそれだけでメルナはラクリウスを
 怒らせたのか?

 「まだ分からないのね。私が気づかなかったとでも云うの?」
 「なんのことを言っている?」
 「私の口から言わせたいの? いえ……言うつもりはないわ。口に出した途端に私はラクリウス様に何をするか分かりませんもの」

 メルナは何を怒っているんだ? 自分の口から言えないこと……相当ヤバいことなんだろうな。

 「言わなければ分からないだろ! それとも、これも俺を怒らせるための演技か?」
 「演技……する訳がありません! そもそもラクリウス様は私を好きだったのですか?」
 「好きじゃなければ、こうして迎えになんて来ていない!!」

 好き……か。この言葉をメルナが納得すれば、オレの想いはなかったことになる。まあ……そもそもメルナは貴族で高嶺の花だったんだよな。
 仮の住まいしかないオレが好きになっていい女性じゃなかったんだ。

 そう思うもオレは悔しくなり涙が出そうになったけど、なんとか堪える。

 「今更……ですか? 自分がして来たことも棚に上げて……」
 「俺がしてきたこと……何か怒らせるようなことをしたのか?」
 「じゃあ聞きますけど!? 私と婚約してからも数名の女性と密会していましたわよね」

 あーそういう事か。それが本当ならばメルナの怒っている理由も理解できる。

 「……な、なんのことだ……言って……いる意味……が……理解できん」

 目が泳いでいる。確実に黒だな……コイツは最低で最悪な男だ。

 心底から怒りが込み上げオレはラクリウスを睨み付けていた。