「じゃあな、白川」
終業のチャイムが鳴ったらすぐに帰っちゃうんだよな、白川。
俺は慌てて白川に声をかけた。
「あ、じゃあ、ね、黒田くん」
小さな手を遠慮がちに振って教室を出て行く白川。
「はあぁ~。かわいいぃ~」
俺は机に突っ伏した。
なんであんなにかわいいんだよ。
「かわいいって誰が?」
驚いて顔を上げると目の前に赤星が立っていた。
「げっ!」
「げっ、ってなんだよ黒田。なあ、かわいいって何? もしかして彼女できたのお前」
なんかにやけてムカつく顔しやがって赤星め。
「彼女なんかじゃねえよ」
なんだったらあいつ男だし。
俺は赤星をにらみつけるようにして見た。
「じゃああれか。好きな人でもできた?」
「ば、バカ、どうだっていいだろ」
なんで椅子に座るんだよ。
早く部活行けよな。
「なんだよ教えろよ。誰? 同中? て言うか、お前の恋バナとか聞いたことないんだけど。そんなにかわいいの?」
「すっげえかわいい」
ヤバい、のせられた。
「どんな感じ?」
「ちっこくて細くてさらさらの黒髪でとにかくかわいいんだよ。笑顔なんてもう最高! あんな顔見せられたらたまんねえって!」
黙れ俺。
「ふーん。黒田の初恋かぁ」
「ふえっ!? 初恋?」
「お前初めての恋じゃね?」
初めての、恋。
そうか、言われてみれば俺、人を好きになったの初めてだ。
「ど、どうしよう赤星。俺どうすればいい?」
こいつに聞いて大丈夫なのか?
いや、この際誰でもいい。
誰か俺を助けてくれ。
「どうするも何も、好きって伝えるしかないだろ」
「へっ! それは無理だ!」
そんなの絶対無理に決まってる。
もしも白川に好きなんて言ったら。
言ったら?
「とにかく、お前見た目は男前なんだからさ。勇気出せよ。じゃあ、俺そろそろ行くわ」
立ち上がってすぐに歩き始めた赤星。
「おい、ちょっと待てよぉ~」
俺は再び机に突っ伏した。