あー、男子校なんてかったるい。
そう思ってふて腐れていたのはほんの数分だった。
入学式が終わりクラスを振り分けられ、各々が自分の教室に入る。
俺は一年二組。
どこを見ても男しかいねえ。
中学生時代はサッカーに明け暮れ恋愛なんてする暇がなかった。ずっとサッカーをやるつもりでこの高校を希望したのに、二ヶ月前、俺は事故で足をケガした。もうサッカーは難しいと言われて落ち込んでいたがやっと立ち直り、こうなったらこれからは恋愛してやると意気込んでいた。なのにここには男しかいない。サッカーも恋愛もできない高校生活なんてクソじゃねえかと思いながら教室に入った。
「よお、黒田。同じクラスだな」
入った瞬間声をかけてきたのは同中の赤星だった。
「なんだ、お前か」
同じくサッカーでこの高校にきた赤星を見て思わずため息をついた。
「なんだよ黒田、もっと喜べよ」
俺の肩に手を回してきた赤星を睨み付けた。
「男ばっかなのに喜べるかよ」
そう言って赤星の手をふりほどいた時だった。
窓際の席に座っている黒髪のちっこいやつが手におにぎりを持っているのが目に入った。そいつはラップに包まれたおにぎりを丁寧に開けると嬉しそうな顔でかじりついていた。
「なんだよ黒田ぁ」
隣で赤星が何か話していたが、俺は窓際のそいつからなぜか目がはなせなかった。
小さな口を開けちょっとずつおにぎりを食べる様子。なんておいしそうに食べているんだ。それになんてかわいいんだ。
は?
かわいい?
いやいや、あいつは男だぞ?
「ん? 何見てんだ黒田」
「え、い、いや」
赤星が俺の目線の先をたどった。
「なんだ、白川か。おはよう白川!」
赤星はそう言っておにぎりを食べているやつの方へと向かっていった。
「お、おい!」
白川?
あいつ白川っていうのか?
なんで赤星が知ってるんだよ。
「あ、おはよう赤星くん。それに黒田くんも」
白川は俺たちを見ると嬉しそうに笑った。
「うっ」
その瞬間、俺の心臓がおかしな音をたてた。
名前を呼ばれたこと、目が合ったこと、そして何より笑顔がかわいい。
「お、お、俺の、な、名前、なんで知って」
口から出した言葉がかすかに震えていた。
「俺は二年の時に同じクラスだったけど」
赤星がそう言って白川を見た。
「え、ああ、黒田くんはカッコよくて目立ってたからみんな知ってるよ。あはっ」
「は?」
黒田くんはカッコいい……黒田くんはカッコいい……黒田くんはカッコいい。
白川の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
もうダメだ。
俺は熱くなる顔を隠すようにその場を離れた。
心臓が口から飛び出るかもしれない。
なんだよあれ。
男子校最高!
白川かわいい!