次の日。2人は埼玉県内のファミレスにいた。先に先に座り、コーヒーを飲んでいると、3人の男女が入店してきた。男性が1人と、女性が2人。スタッフが席に案内しようとするのを断っているところを見ると、あの3人が待ち合わせの相手らしい。
「すみません、待ち合わせした方ですよね?」
「あぁ、はい。えっと…よろしくお願いします」
神崎が声をかけると、相手もやや緊張しつつ応じる。3人を先に座っていた席まで案内し、向かい合うように椅子に座る。
「好きな物を頼んでください」
「あっ…ありがとうございます」
女性の1人がメニューを受け取り、順番に注文していく。スタッフが立ち去ったのを確認して、和本が話し始めた。
「まずは、名前を確認させていただきます。顔と名前を一致させておきたいので」
と前置きし、3人の名前を確認していく。
男性が山川、女性2人はそれぞれ水野、田口と名のった。
「それでは、少しお話を聞かせていただきたいのですが。あなた方の中学校時代のクラスメイト、岡野…あぁ、旧姓は五十嵐美代さんですね。彼女の、中学の時の様子を聞かせてもらいたいんです」
すると、3人はそれぞれ顔を見合わせ、少し言いにくそうな表情になった。やがて、1人の女性が、仕方なく、といった様子で話し始める。
「五十嵐さんは…いじめを、えっと…」
「いじめられていたんですか?」
「いえ、その…いじめていた側…というか…」
もう1人の女性が答える。
「あぁ、なるほど…ちなみに、いじめられていたのは?」
3人は目配せし、相談を始める。
「…誰だったっけ?」
「男子だったよな…」
「それは覚えてるんだけど、名前は…思い出せない」
(いじめられていたのは男子…)
神崎は少し意外な気持ちになりつつ尋ねる。
「他に何か、覚えていることはありませんか?」
「うーん…」
「すみません…私はほとんど覚えてないです」
「僕もです」
「私も…。かなり昔のことなので」
「そうですか。では、また何か思い出せたり、分かったことがあれば連絡をいただけると助かります」
「分かりました」
「ごめんなさい。あまりお役にたてなかったみたいで」
「いえいえ、当時の様子が知れただけでもよかったです」
「協力していただいてありがとうございます」
和本・神崎が礼をいうと、3人は少し安心した様子になった。店を出て3人と別れた後、神崎は内心で首を傾げる。
(いじめ加害者だったということは、恨まれる理由は一応あったということ。でも…中学時代となるとかなり昔のこと。恨み続けていた、という可能性もなくはないけど…)