刃は指を切り落とした。
「ああああぁぁぁぁぁぁあああああああああっっ!!!!!」
良く晴れた日に、耳を劈く悲鳴が上がる。呆気にとられた≪模倣犯≫は、眼を見開いてその光景を眺めていた。
一人、表情なく切り離された指を見つめる業は、自分の服を引きちぎった。流れ出る血液を服で縛り、止める。そして今度は、反対の指を切り落とす。
「ぐぅぅぅうううううっっ!!!!」
また服を裂いて、止血する。
業はそれを全部の指で行った。手の指が無くなれば、足の指で。指が無くなれば、表面の皮膚だけを切り裂くように刃を滑らせる。
死ぬに死ねない状況に、シュナは歯を食いしばる。もう思考は正しくは働かない。言葉も出ない。耳に入った言葉も、もう理解はできない。
「俺はまだ迷ってる。お前を殺していいのかわからない。お前を殺して、俺の気が張れるのかわからない。だから、すぐにはお前を殺さない。苦しむ声に俺の心が痛んだら、もしかしたら、辞めるかもしれない」
ため息を吐いたのは、≪模倣犯≫だ。微かに聞こえた業の言葉に多少は飽きれつつも、今まで≪刺殺≫のアナウンスが流れなかったわけを知る。
≪刺殺≫は極力、自分が殺すことを避けていた。最初こそ殺したが、最終的な止めは刺さずに放置した。それは罪悪感ではない。自分が殺す相手は『妹』だと決めていた。それと同時に迷っていたからだ。
そのために、必要である最小限の動きに徹した。じっくり考え、自分の中の記憶や判断材料を熟成させた。まさか当人が参加しているとは思わなかっただろう。本人とは思わず助けた。微かに直感が働いて、探った。勝手に死なれないように食べ物を与えた。匿おうとした。
そして、今。妹だと判明したシュナの話を聞いても、決めきれないという。それはもう業本人の問題だ。≪模倣犯≫は業を「歪だ」と言った。その通り、業は歪だ。決められない。何が正しいかわからない。自分の選択が間違っていないという確信が持てない。
それは、与えられたものをやるだけの幼少期。自分をみない周囲。引かれたレールを歩むよう強制され、突然切り離された成熟期を送った子どもの成れの果て。
結果として、親と同じ思考を持って育った。
刺され、傷つけられ、もはや痛みを感じなくなったシュナ。ふと、気付く。実の兄が落ちたのを知って、シュナはとても幸せを感じた。『努めて』『幸せ』だった。ぞして今、自分は絶望している。地獄にいる。
それは、自分が大好きなシチュエーションではないか。
「……あ、は」
太陽が昇っている。鳥が飛んでいる。自由に。鳥が鳴いている。楽しそうに。青かった空はいつの間にか真っ赤に、緋色に染まっている。
「あは は は は ははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははは はは ははは ははは っ」
業はシュナを刺す手を止めた。顔は包帯で隠されているシュナを見る。刺すことをやめても、笑い声は止まない。何がおかしいのかと、問いかけた。
「私は今! 私が一番好きなシチュエーションを体現しているの!! 今までは自分がする側だったのに! ああ、嬉しい!! 嬉しいなぁ!!! ありがとうお兄ちゃん!! ここまで来てくれて!! 私は今、すごく幸せだよ!!! これが欲しかったんだ!! 私はこれを知りたかった!!! ありがとう! ありがとう!! お兄ちゃんは神様だーっ!!!」
「っ」
シュナの口にナイフが突き刺さった。喉を塞がれ、笑い声は響かなくなった。けれどまだ笑っている。その声は、くぐもった音と血に溺れる音となって業の鼓膜を揺らす。
業は、再度刺し続けた。さっきまでよりも深く。その間。シュナの声が頭の中を反芻する。笑い声と、『神様』というワードが。
ははははは ははは はは はは はははははははは ははははははは は ははは ははは はは ははは はははは ははは ははははは はははは はは はははは ははははは ははは はははは はははは は は は ははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははは はは ははは ははは ははははは ははは はは はは はははははははは ははははははは は ははは ははは はは ははは はははは ははは ははははは はははは はは はははは ははははは ははは はははは はははは ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは はははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははははは はははは はは は はははは ははははは は ははは ははは ははははは はははは はは はははは ははははは ははは はははは はははは ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは はははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははははは はははは はは は はははは ははははは は ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは はははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははははは はははは はは は はははは ははははは は は は は ははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははは はは ははは ははは ははははは ははは はは はは はははははははは ははははははは は ははは ははは はは ははは はははは ははは ははははは はははは はは はははは ははははは ははは はははは はははは は は は ははは はは ははは ははははは はははは はは はははは ははははは ははは はははは はははは ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは はははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははははは はははは はは は はははは ははははは は ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははは はは ははは ははは ははははは ははは はは はは はははははははは ははははははは は ははは ははは はは ははは はははは ははは ははははは はははは はは はははは ははははは ははは はははは はははは ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは はははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははははは はははは はは は はははは ははははは は ははははははは はははははは は はは ははははは ははははは はは はははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははははは はははは はは は はははは ははははは
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良く晴れた日に、耳を劈く悲鳴が上がる。呆気にとられた≪模倣犯≫は、眼を見開いてその光景を眺めていた。
一人、表情なく切り離された指を見つめる業は、自分の服を引きちぎった。流れ出る血液を服で縛り、止める。そして今度は、反対の指を切り落とす。
「ぐぅぅぅうううううっっ!!!!」
また服を裂いて、止血する。
業はそれを全部の指で行った。手の指が無くなれば、足の指で。指が無くなれば、表面の皮膚だけを切り裂くように刃を滑らせる。
死ぬに死ねない状況に、シュナは歯を食いしばる。もう思考は正しくは働かない。言葉も出ない。耳に入った言葉も、もう理解はできない。
「俺はまだ迷ってる。お前を殺していいのかわからない。お前を殺して、俺の気が張れるのかわからない。だから、すぐにはお前を殺さない。苦しむ声に俺の心が痛んだら、もしかしたら、辞めるかもしれない」
ため息を吐いたのは、≪模倣犯≫だ。微かに聞こえた業の言葉に多少は飽きれつつも、今まで≪刺殺≫のアナウンスが流れなかったわけを知る。
≪刺殺≫は極力、自分が殺すことを避けていた。最初こそ殺したが、最終的な止めは刺さずに放置した。それは罪悪感ではない。自分が殺す相手は『妹』だと決めていた。それと同時に迷っていたからだ。
そのために、必要である最小限の動きに徹した。じっくり考え、自分の中の記憶や判断材料を熟成させた。まさか当人が参加しているとは思わなかっただろう。本人とは思わず助けた。微かに直感が働いて、探った。勝手に死なれないように食べ物を与えた。匿おうとした。
そして、今。妹だと判明したシュナの話を聞いても、決めきれないという。それはもう業本人の問題だ。≪模倣犯≫は業を「歪だ」と言った。その通り、業は歪だ。決められない。何が正しいかわからない。自分の選択が間違っていないという確信が持てない。
それは、与えられたものをやるだけの幼少期。自分をみない周囲。引かれたレールを歩むよう強制され、突然切り離された成熟期を送った子どもの成れの果て。
結果として、親と同じ思考を持って育った。
刺され、傷つけられ、もはや痛みを感じなくなったシュナ。ふと、気付く。実の兄が落ちたのを知って、シュナはとても幸せを感じた。『努めて』『幸せ』だった。ぞして今、自分は絶望している。地獄にいる。
それは、自分が大好きなシチュエーションではないか。
「……あ、は」
太陽が昇っている。鳥が飛んでいる。自由に。鳥が鳴いている。楽しそうに。青かった空はいつの間にか真っ赤に、緋色に染まっている。
「あは は は は ははは はは ははは はははは ははは はは はははは ははは はは ははは ははは っ」
業はシュナを刺す手を止めた。顔は包帯で隠されているシュナを見る。刺すことをやめても、笑い声は止まない。何がおかしいのかと、問いかけた。
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「っ」
シュナの口にナイフが突き刺さった。喉を塞がれ、笑い声は響かなくなった。けれどまだ笑っている。その声は、くぐもった音と血に溺れる音となって業の鼓膜を揺らす。
業は、再度刺し続けた。さっきまでよりも深く。その間。シュナの声が頭の中を反芻する。笑い声と、『神様』というワードが。
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