「お、おじゃまします」
「どうぞどうぞ」
「にゃーうー」

 ある休みの日、うちにコグレが遊びに来た。
 マナがパタパタと部屋を掃除し、見慣れない服に着替えると思ったらそういうことだったんだ。しかも料理までしている。いつも惣菜と冷凍食品で済ますマナが。

「あまり料理しないのは、もうバレてるんだけどね」

 そう言っていたが、努力はするんだ。えらいなマナ。
 コグレはしゃがみこむと俺を真っ直ぐ見て挨拶した。

「コタロウ君、これからよろしくお願いします。たまにお邪魔するのを許して下さい」
「みゃ」
「やだ、コタは親じゃないんだから」
「だってマナさんの家族でしょ」

 控えめに笑うコグレは、飼い猫(おれ)の話をするマナをかわいいと思ったらしい。仕事の時のテキパキしたのと違い、フニャっと笑うのがおもしろかったとか。
 なんだよ、おまえら俺のおかげか。

「だからコタ君に、お近づきのしるしを」

 そうコグレが取り出したのは、長細い何かだった。鼻を寄せてフンフンしてもわからない。マナが苦笑いした。

「これはマタタビ並だっていうから控えてたのに」
「ごめん。僕の小遣いから貢ぎます」

 ぷち、と端を切るとニュルンと何かが出てくる。いい匂いだ。
 ぺろ。

「――ッ!」

 なんだこれは! 超うまい! ぺろぺろ。

「あ……やっぱりそうなるの」
「CMで見てたやつだ……感動……」

 マナとコグレが笑顔で見守る中、俺は夢中で食べた。
 全部きれいに絞って食べさせてくれたコグレの膝に乗り、もっとよこせとねだる。

「うわー、膝に来てくれた」
「コタ、秒で懐柔されるし!」
「僕らが仲良くなった方がいいでしょ」

 なんだ、コグレは俺のしもべになりたいのか? まあ採用してやってもいいぞ、またコレを持ってくるならな。
 おそるおそるなでてくるコグレを、マナが嬉しそうに見ている。だから俺はなでさせておく。マナが喜ぶなら、それで。
 家にもちょこちょこ来い。マナはひとり言ばかりの寂しん坊だから、俺だけだともてあます。人間の話相手がほしかったんだ。
 だけどコグレ、マナを泣かすなよ。
 そんなことしたら、そうだな、思いきり顔を引っかいてやろうか。

 だって、だってさ。
 だって俺は、猫なんだからな。