夜中から大雨だった。
 なんとなく気がたかぶるのは俺の生存本能が危機を叫ぶからか。ま、この部屋にいれば雨に濡れることなんてないんだけどさ。
 うろうろしていた俺は、台所の異変に気づいた。毎朝うなりを上げるはずの炊飯器が静かだ。またしくじったな、マナ。

「み」

 いつもマナがピッとしている辺りを踏んでみる。何度もやるうちに、体重をかけたらブーンといい出した。これでいいのか?

「みゃ」

 ふう。まったく世話の焼ける……。

 マナが起きる時間になっても、ご飯はまだ炊けていなかった。首をかしげている。

「時計、ずれてたのかな? 炊けてきてるし間に合うけど……」
「みゅーう」

 おまえがポカしたんだよ、というのは通じていないんだろうな。
 マナは先に俺のカリカリを出す。そして自分の髪の毛を妙に気にしていた。

「湿気がひどいね。この雨じゃしょうがないけど、ふくらむなあ」

 そう言って洗面所でゴウゴウとするのは、ドライヤーという物だ。俺の風呂上がりにもやられるが、うるさくて俺はあまり好きではない。けっしてビビってるわけではない。

 そのうちに炊けたご飯を食べ、お弁当にし、マナは出かける時間だ。

「レインブーツ、久しぶりに出そ」

 大雨用の靴、だそうだ。人間はめんどうだな。服とか靴とか。

「コタもはく? 長靴をはいた猫ー!」

 ぶら下げられて靴に足が触れたので、俺は暴れた。

「ふしゅッ」
「え、怒るの。ごめんてば」

 普通に怒るわ。ぷい、と部屋に引っ込む俺にマナは情けない声を出した。

「コタ、かわりに仕事行ってー。こんな雨、私だって行きたくないよ」
「にゃッ」
「はいはい。じゃあ行ってくるね」

 マナは渋々出て行った。
 無茶ぶりするなよ。濡れるなんて真っ平ごめんだ。

 だって、俺は猫だからな。