おかしい。
 朝なのに目覚ましが鳴らない。
 マナは目覚ましを掛けそびれたんじゃないのか。この間ご飯が炊けなかったのを俺は忘れてない。あれと同じだったらどうする。

「うにゃ!」
「ぐえ」

 俺はとりあえずマナの首もとに乗っかった。一度起こしてみればわかる。

「なに……なに、コタぁ」
「みゃあ~う」
「寝かせてぇ。今日お休みなんだから……」

 なんだ、起きなくていい日か。じゃあ俺のカリカリを出してから寝直せ。

「にゃお」
「ご飯? そりゃそうか、あうう……」

 俺のしもべ・マナはずるずるとカリカリを出しにいった。ご苦労ご苦労。
 ご飯に食いつく俺の脇に座り込み、マナはニヘラと笑う。敬愛をこめて俺の背中をなでるのは許すが――おい、腹はやめろ!

「ふしゃッ!」
「うえーん、コタが怒ったあ」

 食事中に腹をくすぐる方が悪い。まったく行儀の悪い奴だ。皿からカリカリがこぼれたじゃないか。
 きちんと拾って食べる俺。今後は飼い主のしつけも頑張らないといけないか。

「あ、洗濯回しとこ」

 目が覚めてきたのかマナは立ち上がった。
 家にいる日にやること、いろいろあるよな。掃除とか、買い出しとか。それに俺と遊ぶのもマナの役目だし。風呂に入れるのはやらなくていいんだけどさ。

「今日は少し料理しようかな。作り置きするの。冷食ばっかだと飽きるし」

 おお、意識高いじゃないか。

「お弁当のぞかれて、手作りがプチトマトだけだと恥ずかしいんだよね」

 それ作ってないだろ。誰がのぞくんだ、マナの弁当なんて。

「昨日アライさんがチラ見して鼻で笑ってきてさ、超むかついた」

 ……女同士。
 そこでスマホが鳴った。マナが嫌そうな顔になる。じゃあ出なきゃいいのに、ちゃんと手に取った。

「はい、ハラダです。コグレ君? どうかしました――病欠? 熱? アライさんとワタリさん――あー、二人同時だとちょっと怖いね。皆さん体調気をつけて――うん、とにかく今日はヘルプ行きます」

 電話を切ったマナは仕事モードに切り替わってる。なんだよ、出勤かよ。
 だけど俺を見おろして手を伸ばしてきた。吸われる。

「ああああー! やだやだやだ、コタといるぅー!」

 俺に埋まりながら叫ぶな! 震えるわ!
 だけど俺はがまんしてやった。スリスリとサービスもする。マナもつらいところなんだろうから。

 いつにも増してスーンとなって出ていくマナ。まあ、頑張れ。俺は気楽に眠って待ってるし、気にするなよ。

 だって、俺は猫だからな。