しばらく自己嫌悪で落ち込んでいると、スマートホンが軽快な音楽を鳴らした。
 俺は毛布の上に伏せていた端末を拾いあげた。

 バックグラウンドで進んでいたマッチングアプリのインストールが終わって、登録画面が表示されたところだった。

 もう雅人に身勝手な期待をするのはやめよう。
 勉強を頑張っている雅人の邪魔になりたくない。

 俺は気をとりなおし、プロフィール画面を埋めていった。
 名前はとりあえず「りくや」。生年月日、血液型。趣味は、サッカー観戦とゲーム。好きな食べ物はお好み焼きとチョコレート。好きなタイプは――理知的で落ち着いた大人っぽい人が理想です。

 忙しく親指を動かして打ち込む俺の脳裏に、ちらちらと雅人の顔がよぎる。
 ――あと努力家で優しくて、いつも俺のワガママをきいてくれて。

 ダメだ。もう泣きそうになってきた。
 こんなことで本当に新しい人と出会えるのか、俺。

 自分の未練がましさにあきれながら、なんとかプロフィールを完成させた。
 性自認Mを選択し、彼氏を募集にチェックマークを入れた。

 自分がゲイなのかどうかはまだよくわからなかった。
 雑誌の表紙になっているような女性のグラビアも綺麗でセクシーだと思う。同時に、男性アスリートの鍛えられた肢体もセクシーだと思う。
 俺はバイセクシャルかもしれないな、と薄々思っていた。

 雅人が傍にいたから男性が気になるのか、男性が気になるから雅人にこだわってしまうのか、そこは自分でも判然としなかった。

 登録を終えると、アプリの画面に次々にマッチングしそうな男性のプロフィールが表示されていた。自分の写真を登録している人もいるし、俺と同じようにしていない人もいる。後ろ姿や、加工した画像を使っている人もいるようだった。