相沢が平然ととんでもないことを言う。
「え? ええ? なにそれ」
笑ってごまかそうとする俺に、相沢はなんでもないことのように話し出した。
「B組の麻生、一年のときは普通に男子だったけど二年から女子の制服で登校するって宣言したじゃん。髪の毛も伸ばして、男子トイレも男子更衣室ももう使わないって」
その話は俺も知っていた。彼もとい彼女への配慮として、学校では着替えには保健室を、トイレは多目的トイレを使用することに決まった。
最初こそ話題になったが、今はこの状況をみんな当たり前のように受け入れている。
「こういうご時世なんだしさ、同性でつきあってても別に不思議はないよね。だからあんたたちもそういうのかと思ってた。なんかこう、河合たちは他の人を寄せ付けない雰囲気があったからさ」
ちょっと待って。
俺はうろたえた。
『他の人を寄せ付けない雰囲気』ってなに?
俺って、相沢から見ても、雅人に対して独占欲だだもれだったのか?
頭が痛くなってきた。
そりゃあ痛い奴だったな。雅人も逃げたくなるよな。
「いや、それは俺が悪いんだよ。雅人はそんなつもりなかったと思うよ。俺がいつまでも小学生気分でつきまとってただけでさ」
雅人に依存していたんだなあ、と思う。自分のしてることが客観的に見えなくなるくらいには。
相沢はきょとんとして首をかしげた。
「いやあ。そうかな。……こじらせてるのは柊のほうだと思ってたけどな」
小さな声でつぶやいた。
「まあ、いいか。じゃ、しばらくは寂しくなるね」
「しばらく?」
「受験終わったら、また遊べばいいじゃん」
あ、そうか。俺、なにを思いつめていたんだろう。
そんなふうに考えることができればよかった。
受験さえ終われば元通りの関係に戻れる、やったーって。単純に受けとめられたらよかった。
「うん、でも、雅人は実際どう思ってたのかな。雅人は……俺からも卒業して、新しい人間関係を作るんじゃないのかな」
自信の無い俺の言葉に、相沢は一瞬真顔になり、そのあと豪快に笑い出した。
「そんなわけないでしょ。柊と河合は初等部の頃からニコイチなんだからさあ」
俺も笑い返そうと努めたけれど、たぶん顔は引きつっていただろう。