※ ※ ※
その日から、俺はひとりで帰るようになった。
同時に、あまりご飯が食べられなくなった。大好きな唐揚げもたこ焼きも味がしなくなった。ただただ、目の前に出された食事を義務のように口の中に押し込んで、咀嚼し飲み下す日々だった。
なんとか自分のメンタルを立て直そうとした。
なんでもない、ただそういう時期が来ただけだ。俺は今までどおり生きて行けばいい。
わかっているのに、雅人が傍にいなくなったあとの自分がこれからどうなるのか思い描けなかった。
教室では、いつもどおり「声の大きいバカな男子」のまま振舞った。自分の生き方を決めた雅人に、変な心配をかけたくなかった。
でも、いつも心は崖っぷちに立っていた。
ここは俺にとって安全で楽しい場所――でももう足元から崩壊が始まっている。
雅人は別の大学に行く。そこで新しい人現関係ができるだろう。バイトを始めて、彼女だってできる。そしてどこかに就職を決めて、結婚して……。
未来の俺の立ち位置は、「たまに思い出してもらえる旧友」だ。
そこまで考えたら、どうしようもない喪失感に泣けてきた。
※ ※ ※
その後、ひとりで通学することになった俺は、電車に揺られながら自問自答を繰り返した。
俺はずっと子供のままでいたかったのだろうか?
そんなわけない。年を取るたびに、行動範囲が広がり、自由が与えられた。内部進学だけど大学に行くことだって楽しみにしている。
じゃあ、ずっと雅人の親友のままでいたかった?
そう。それだ。
ずっとお互いを最優先にする特別な友達のままでいたかった。
俺は、雅人の真面目な顔も、笑った顔も好きだったし、彼のブレザーの匂いを嗅ぐと安心した。ナントカ委員とか係とか、すぐに引き受けてしまうお人よしのところも好きだった。ちょっと老け顔なのを気にしていて、前髪をわざと作っているのも好きだった。
当たり前だ。
親友だから。
でも、友人関係は環境とともに変わっていくものなのだ。
雅人にはこれからもっとふさわしい新しい友人がたくさんできるだろう。
その事実は、今の俺には息ができなくなるくらい残酷なことだった。
十二年間、一緒に通った電車。車窓には見慣れた風景が流れていく。
俺はこんなに雅人のことを知ってるのにな。
俺は雅人のこと、こんなに好きなのにな。
なのに別々の道を行くのが、世間の当たり前なんだ。
それが成長だから?
大人になることだから?
自分のガキ臭さに腹が立って、ため息をつく。
俺はまるで大人になりたくない、と駄々をこねる子供のようだ。
でも、雅人にはちゃんと大人になってほしい。雅人なら、きっとたくさんの人の役に立つ立派な大人になれる。そして将来は雅人も、家族やたくさんの人にかこまれて幸せになってほしい。