俺は一瞬スマホを耳から離した。

「ああ、俺、元気ないの、雅人にバレてたんだ?」

 小さな声で訪ねると、ふっ、とあきれたようなため息が聞こえた。

「すぐわかるよ」

 絶賛叱られ中なのに、その言葉がうれしかった。俺のことを気にかけていてくれていた。俺の演技に気がついてくれた。

「ごめん。本当にごめん。俺まだガキだったから。そういうこと真剣に考えてなかった。雅人と距離を置いて初めて、失うのが怖くなった。なんにも伝えなくても、努力とかしなくても、俺らはずっと一緒だって――そんなことありえないのに――都合のいいこと考えていたんだ」

 俺は、つっかえながら一生懸命言葉を紡いだ。
 雅人は少し黙っていたけれど、やがて、くす、と笑った。

「……いいよ。俺だってずっと怖かったんだから」
「怖い?」
「世間ではLGBTの権利を認めましょうって雰囲気になってるけど、いざ自分がそういう生き方を選ぶとなると、まだいろいろ不安でさ」

 そうか、雅人はそこまで考えていたんだ。

「告白して、お前が俺を恋人に選ばないならそれは仕方ない。でもお前が仮にOKしてくれたとしても……」

 雅人が言葉を詰まらせる。

「俺がそういう生き方にお前を巻き込んだみたいになっても、お前がちゃんと幸せになれるかなって……それが心配で」

 語尾は涙声になっていた。
 胸が痛くて、俺は自分の胸の部分の服地をぎゅっと掴んだ。
 先に雅人をひとりで悩ませてしまったのは、俺のほうだったんだ。

 伝えなくちゃ、俺がずっと幸せだったこと。それは雅人が側にいてくれたからだったこと。
 これからも離れずに、より深い関係を作っていたいと思っていること。
 異性愛とか同性愛とか、俺にはどっちでも同じ。
 ただ雅人が好きだっていうこと。
 スマートホンを持ち直し、上体を起こして改めて気持ちを伝えた。

「俺は、雅人といられてずっと幸せだったよ。でもこれからは、俺も一緒に悩んだり、考えたりさせてほしい」

 うん、と返す声は鼻声だった。
 そのあと、雅人は一度鼻をすすってから、甘い声で囁いた。

「言ってもいい? 今度は間違えようのない言い方で」
「言ってよ。俺バカだからさ」

 俺も、声をひそめる。

「好きだよ、陸也」
「俺も、好きだよ、雅人」
「三月になったら、行こうな、デート」
「うん」

 俺はいつのまにか濡れていた頬を指先でぬぐった。

 神様、ありがとう。
 メッセージ、誤爆させてくれてありがとう。
 俺、幸せになりました。