最近の校内では専ら期末テストと夏休みの予定で学生たちの話題はもちきりだ。
勿論冬夜は期末テストのことしか頭にない。
自身の勉強もそうだが、春斗の成績が気がかりだったため、各教科のテスト範囲を確認しながら問題用紙の作成に励んでいた。
期末テストが近づくと各教室が解放されるため、そこからあまり人気のない教室を選び春斗と待ち合わせの約束をする。
放課後、待ち合わせの教室の扉を開けると既に春斗は待っており、冬夜に顔を向けると「よ!」と手を挙げ軽く挨拶する。
その顔を見て冬夜は自ずと口元が緩む。

「持たせてしまってすまないな」
「俺もいま来たとこー」

謝罪に春斗は軽い返事をする。
冬夜が前の席に腰掛けるのを春斗は頬杖を突きながら目で追い、独り言のように零す。

「夏休み楽しみだけど、冬夜とはあんまり会えなくなるなー」

春斗の意識は目先のテストより既に後の楽しみに向いている。
席に腰掛けた冬夜は姿勢を正すと、自身の鞄からクリアファイルを取り出し、自作した問題用紙を抜き取ると春斗へと差し出す。

「安心してくれ。夏休みも勉強会はしっかり開催する予定だ」
「それはそれは。嬉しいんだか悲しいんだか……。あ、でも俺夏休みはバイトするから、決まるまで予定いれるの待ってくれねぇ?」

差し出された問題用紙を受け取った春斗はさーっと目を通し、すぐ解けそうな問題を探す。
そんな春斗の予期せぬ発言に冬夜は一拍置いてから聞き返す。

「バイトするのか?」
「ああ。携帯代とお小遣い分は自分で稼げって母親から言われてるからさー。でも働きすぎても扶養?から外れるからほどほどにってさ。冬夜はバイトしないの?」
「僕は塾の夏期講習があるからな。学業優先だ」
「俺はバイトで冬夜は塾かー。予定合うかなー?」

片手で頭を掻きながら問題用紙とにらめっこする春斗。
ふいに言われた言葉の意味が気になった冬夜は心がソワソワし始める。
口元に手を当てこほんと咳払いし、冬夜はチラチラと春斗の様子を窺いながらも、なんともないように問いかけを口にする。

「春斗は僕と会えないのは寂しかったりするのか?」
「うん」

目線は問題用紙に向けたままであったが、春斗は即答し頷いた。
ほわっと胸が温かくなるのを冬夜は感じたが、それが悟られないようにもう一度咳払いをする。
平常心、平常心と心を落ち着かせた。

「なら期末テストは頑張らないとな」
「あー。夏休みの補習な。午前中だけでも潰れるの嫌だしなー」

これ以上予定が埋まるのは勘弁、と苦々しく顔を歪める春斗。
その姿を見て冬夜は可笑しくなりふっと笑い、春斗の持っている問題用紙を渡すよう促すとヒントを出しながら彼が解いていくのを見守った。

そうして放課後の勉強会を重ね、期末テストは二人とも満足のいく結果であり、気兼ねなく夏休みに思いを馳せた。

夏休みに入り、冬夜は夏期講習、春斗はバイトに勤しむ。
1週間が過ぎ、久々の逢瀬は春斗の夏休みの宿題が進んでないということで図書館での勉強会となった。
駅で合流し、春斗が「ほんと、俺等って清く正しい交際してるなー」とボヤけば冬夜が「素晴らしいことだ」と満足気に頷く。図書館行きの停留所まで着くと日陰に入り次のバスを待つ。

「バイトはどうだ?」
「覚えること多いけどなんとかやってけてるよ。多分夏休み明けてからも続けるかも」
「勉強は大丈夫か?」
「まあ、毎日入るわけじゃないから、冬夜と勉強会すればなんとか?」

首を傾げる春斗に、冬夜は呆れつつも不安げな眼差しを向ける。
何かを言おうか迷っていると、丁度バスが到着したため会話は途切れ二人はバスに乗り込んだ。
バスに乗っている間は特に会話することなく10分ほどで図書館前に到着し降車する。

「8月に神社の夏祭りあるじゃん?」

降りたと同時に春斗は冬夜に話を切り出す。
地元の祭りの一つで花火も打ち上がるので規模としては大きいものだ。
図書館への歩みを進めながら冬夜は相槌を打つ。

「ああ」
「一緒に行かね?」

さらりと誘われ、冬夜はピタリと足を止める。
春斗もそれに倣い歩みを止める。

「夏祭りデートしようぜ」

固まっている冬夜ににっと春斗は笑って、はっきりとその誘いの目的を口にした。
呆気にとられている冬夜の返事を春斗は期待に満ちた表情で静かに待つ。

「そ」
「そ?」

ようやく口を開いた冬夜の一言一句を聞き逃さないために春斗は耳に手を添え、耳を傾ける。

「そんなのデートじゃないか……!」
「うん。だからデートしようぜって誘ってるんだけど」

驚愕する冬夜に春斗は冷静にツッコミを入れる。
しかし、冬夜の耳には入っていなかった。
何故今、勉強する前に誘ったんだと、そんな事を急に言われたらそのことばかりを考えてしまうだろうと、脳内は既にお祭り状態だ。

「折角付き合って初めての夏休みだし、なんか夏っぽいことしたいなーって思ってさ」

頭を抱える冬夜に構うことなく春斗は自分の意見を包み隠さず話す。
冬夜としてはこうして夏休みに図書館に2人で赴くことも夏休みデートしているなぁと感じていたのだが、まさかそれ以上を提案されるとは思っておらず、心の準備が出来ていなかった。

「あ。もしかして塾があったりする?」
「あるが……19時の待ち合わせなら問題ない」

とはいえ、断る理由もない。
多少無理してでも行く気満々だ。
冬夜の返事に春斗はほっとする。

「じゃあまた日にちが近くなったら予定とか立てようぜ」
「あ、ああ。……た、楽しみだ」
「俺も楽しみ」

気恥ずかしさを抑えながら頑張って冬夜が気持ちを口にすると、春斗は笑顔でそれに応えた。