神本くんは次の日も昼過ぎにやって来た。
「おい茜、入れてくれ」
ドアをノックする音が響く。どうせ説教か何かをする気で来たに違いない。誰が入れるものか。今日もトイレで待ち伏せするつもりだろうけど同じ手はくわない。絶対に神本くんが帰るまで耐えてやる。私が無視してゲームをしていると、何やらドアの方からガチャガチャと金属の音が響き始めた。おや? と思ってドアノブを注視しているとガチャンと音がして勢いよく扉が開いた。
「きゃ、いやあああああ!」
予想外の恐怖に私は思わず叫んでしまった。ドアが無理やりこじ開けられるなんてホラー映画以外で見たことのないシチュエーションだ。この場合99.9パーセントの確率で化け物が入ってきて、残り0.1パーセントは忍者である。扉を開け、踏み込んできた忍び装束の男は私の顔を確認するなりこう言った。
「入るぞ」
もう入ってる!
「っていうかどうやって入って来たのよ! ちゃんと鍵してたのに!」
「大したことじゃない。ピッキングしただけだ」
「泥棒か!」
「違う、忍者だ」
「あーもう、そうじゃなくって!」
まさに糠に釘だ。話の通じない神本くんを説き伏せて外に追い出すのは相当骨が折れるだろう。昨日から分かってたけど。
「今日もFPSを、いやお前を外に出しに来た」
そしてまだFPSの面影を振り切れていないようである。
「昨日も言ったけど、私、外には出ないよ」
「どうしてだ。今この家の外はとてもいい天気だぞ」
いい天気と言われて、半年以上も前に見た夏空が頭の中に広がった。夏の空は一年の中で一番深い青をしていて、もくもくと立ち込めた入道雲がその中をゆっくり移動していく。そんな真夏の美しい情景。
「……そっか、そんなに晴れてるんだ」
「いや土砂降りだぞ」
「ええっ!? さっきいい天気って言わなかった!!?」
何だろう、この高層ビルの屋上まで登らされた後即座に突き落とされたような気持ちは。
「土砂降りは土砂降りでいい天気だぞ。さあ外に出よう」
「嫌だよ! びっしょびしょになるじゃない」
「晴れていたらいいのか?」
「そういう問題じゃないの。とにかく嫌なの!」
私は頑として譲らなかった。このわけのわからない相手に少しでも隙を見せたら、外に連れ出されかねないと思ったからだ。神本くんは私の強情な態度に手を焼いているのか、一度小さくため息をついた。
「そうか。やはり半年ものの引きこもりは一筋縄ではいかないようだな」
人を燻製みたいに言うのはやめてくれ。
「俺は人と心を通わせねばならない時は、決して土足で踏み入ってはいけないことを心掛けている」
「さっきピッキングして無理やり入って来たよね?」
「そういうわけで茜よ、明日はお前に飛びっきりのプレゼントを持ってきてやろう」
「プレゼント……?」
この男に期待なんかしていないが、ちょっとだけ気になっている自分がいた。
「おい茜、入れてくれ」
ドアをノックする音が響く。どうせ説教か何かをする気で来たに違いない。誰が入れるものか。今日もトイレで待ち伏せするつもりだろうけど同じ手はくわない。絶対に神本くんが帰るまで耐えてやる。私が無視してゲームをしていると、何やらドアの方からガチャガチャと金属の音が響き始めた。おや? と思ってドアノブを注視しているとガチャンと音がして勢いよく扉が開いた。
「きゃ、いやあああああ!」
予想外の恐怖に私は思わず叫んでしまった。ドアが無理やりこじ開けられるなんてホラー映画以外で見たことのないシチュエーションだ。この場合99.9パーセントの確率で化け物が入ってきて、残り0.1パーセントは忍者である。扉を開け、踏み込んできた忍び装束の男は私の顔を確認するなりこう言った。
「入るぞ」
もう入ってる!
「っていうかどうやって入って来たのよ! ちゃんと鍵してたのに!」
「大したことじゃない。ピッキングしただけだ」
「泥棒か!」
「違う、忍者だ」
「あーもう、そうじゃなくって!」
まさに糠に釘だ。話の通じない神本くんを説き伏せて外に追い出すのは相当骨が折れるだろう。昨日から分かってたけど。
「今日もFPSを、いやお前を外に出しに来た」
そしてまだFPSの面影を振り切れていないようである。
「昨日も言ったけど、私、外には出ないよ」
「どうしてだ。今この家の外はとてもいい天気だぞ」
いい天気と言われて、半年以上も前に見た夏空が頭の中に広がった。夏の空は一年の中で一番深い青をしていて、もくもくと立ち込めた入道雲がその中をゆっくり移動していく。そんな真夏の美しい情景。
「……そっか、そんなに晴れてるんだ」
「いや土砂降りだぞ」
「ええっ!? さっきいい天気って言わなかった!!?」
何だろう、この高層ビルの屋上まで登らされた後即座に突き落とされたような気持ちは。
「土砂降りは土砂降りでいい天気だぞ。さあ外に出よう」
「嫌だよ! びっしょびしょになるじゃない」
「晴れていたらいいのか?」
「そういう問題じゃないの。とにかく嫌なの!」
私は頑として譲らなかった。このわけのわからない相手に少しでも隙を見せたら、外に連れ出されかねないと思ったからだ。神本くんは私の強情な態度に手を焼いているのか、一度小さくため息をついた。
「そうか。やはり半年ものの引きこもりは一筋縄ではいかないようだな」
人を燻製みたいに言うのはやめてくれ。
「俺は人と心を通わせねばならない時は、決して土足で踏み入ってはいけないことを心掛けている」
「さっきピッキングして無理やり入って来たよね?」
「そういうわけで茜よ、明日はお前に飛びっきりのプレゼントを持ってきてやろう」
「プレゼント……?」
この男に期待なんかしていないが、ちょっとだけ気になっている自分がいた。