私は駅前の喫茶店で幸枝と向かい合い座っていた。手にストローを持ち、コーヒーの入ったグラスをぐるぐる回している。
「本当に忍者は来ますかね」
幸枝が呟いた。
お父さんから三時間にわたる説教を受けたあの日、私はすぐさま幸枝に忍者と連絡を取らせた。そして来週の日曜日……つまり今日この喫茶店で会う約束を取り付けたのだった。もちろん縁談相手のいる私が、無断で他の男に会っているなんてバレたら大変なことになるだろう。磔の刑とか水責めの刑に処されるかも、いえお父さんなら本気でやりかねない。それにバレてしまったらどんな言い訳をすればいいのかな。「忍者に依頼をしていました」なんて本当のことを言っても心の病気を疑われるだけだ。だからこの事は極秘裏に行っている。幸枝にしか話していない。
「私が電話で話した感じ、物静かな少年のようでしたよ」
幸枝が言う。確かに私が彼を鯉の餌にしてしまいそうになった時も声を荒げるようなことは無かった。普段から物静かな人なんだろうか。ミステリアスな雰囲気の男も悪くない。
そう思っていると喫茶店の扉が鐘の高い音を響かせた。神本くんが来たのかもしれない。期待に胸を膨らませて入り口を見た私は即座に目を逸らしたい衝動に駆られた。視界の先にいた男の私服があまりに破滅的というか世紀末で、さらに残念なことに男が神本くんだったからだ。
黒いTシャツに黒いジャージ。この時点で論外だが、ジャージはボロボロで膝のところが破けたりしている。デニムならまだしも何故ジャージにダメージを与えようと思ったのだろう。更にTシャツはヨレヨレの上【I am a Ninja】という意味不明のプリントがされている。
「では依頼の話を聞かせてもらおう」
席に腰かけた神本くんが言った。座るな座るな!
「話しかけないで」
このままだとカフェの人たちに私とこのダメージジャージ男が知り合いだと思われてしまう。
「何故だ。俺はお前に呼ばれてここへ来た」
「ああもう、神本くんの服がダサすぎるの! 何をどう選んだらそこまで最悪の組み合わせになるの? あとそれどこに売ってるの? どこで見つけてきたの? 私には世界中を探しても見つかりそうにないわ」
「しま〇らに売ってるぞ」
「お黙り! そんな服を着るくらいなら素っ裸になってもらった方がマシよ!」
「脱げばいいんだな」
神本くんが何の躊躇もなくTシャツを脱ぎ始めたので私は慌てた。駄目だ、この人冗談通じない。しかし私とは正反対に幸枝は指笛を鳴らして「真っ裸! 真っ裸!」と嬉しそうに手拍子している。駄目だこいつ。
「あーもう! 脱がなくていいから付いてきてちょうだい。でも絶対に私と並んで歩かないで!」
私は低い声で言い、席を立ってそのまま店を出た。
「本当に忍者は来ますかね」
幸枝が呟いた。
お父さんから三時間にわたる説教を受けたあの日、私はすぐさま幸枝に忍者と連絡を取らせた。そして来週の日曜日……つまり今日この喫茶店で会う約束を取り付けたのだった。もちろん縁談相手のいる私が、無断で他の男に会っているなんてバレたら大変なことになるだろう。磔の刑とか水責めの刑に処されるかも、いえお父さんなら本気でやりかねない。それにバレてしまったらどんな言い訳をすればいいのかな。「忍者に依頼をしていました」なんて本当のことを言っても心の病気を疑われるだけだ。だからこの事は極秘裏に行っている。幸枝にしか話していない。
「私が電話で話した感じ、物静かな少年のようでしたよ」
幸枝が言う。確かに私が彼を鯉の餌にしてしまいそうになった時も声を荒げるようなことは無かった。普段から物静かな人なんだろうか。ミステリアスな雰囲気の男も悪くない。
そう思っていると喫茶店の扉が鐘の高い音を響かせた。神本くんが来たのかもしれない。期待に胸を膨らませて入り口を見た私は即座に目を逸らしたい衝動に駆られた。視界の先にいた男の私服があまりに破滅的というか世紀末で、さらに残念なことに男が神本くんだったからだ。
黒いTシャツに黒いジャージ。この時点で論外だが、ジャージはボロボロで膝のところが破けたりしている。デニムならまだしも何故ジャージにダメージを与えようと思ったのだろう。更にTシャツはヨレヨレの上【I am a Ninja】という意味不明のプリントがされている。
「では依頼の話を聞かせてもらおう」
席に腰かけた神本くんが言った。座るな座るな!
「話しかけないで」
このままだとカフェの人たちに私とこのダメージジャージ男が知り合いだと思われてしまう。
「何故だ。俺はお前に呼ばれてここへ来た」
「ああもう、神本くんの服がダサすぎるの! 何をどう選んだらそこまで最悪の組み合わせになるの? あとそれどこに売ってるの? どこで見つけてきたの? 私には世界中を探しても見つかりそうにないわ」
「しま〇らに売ってるぞ」
「お黙り! そんな服を着るくらいなら素っ裸になってもらった方がマシよ!」
「脱げばいいんだな」
神本くんが何の躊躇もなくTシャツを脱ぎ始めたので私は慌てた。駄目だ、この人冗談通じない。しかし私とは正反対に幸枝は指笛を鳴らして「真っ裸! 真っ裸!」と嬉しそうに手拍子している。駄目だこいつ。
「あーもう! 脱がなくていいから付いてきてちょうだい。でも絶対に私と並んで歩かないで!」
私は低い声で言い、席を立ってそのまま店を出た。