サァ――ザアアアアアアッ……雨は、ふたりが帰ってくるのを待っていたかのように降り出した。
「間に合って良かったわね」
「ですね」
 マリ子が豚の貯金箱に500円を入れたあと、遠藤も同じように500円玉をちゃりんと落とした。
「雨降る前貯金、もういっぱいになりそうですね」
「そうね。節約のためって言ってたけれど、遠藤さんとの共同貯金だから、これは別のことに使おうと思っているの」
「何ですか?」
「遠藤さんとね、カラオケに行って、甘いものを食べに行きたいなって。買い物もしたいな。新しいスマホに代えたいの、付き合ってくれない?」
「いいですね。この貯金使ったら、次は何貯金します?」
「あら、考えてなかったわ。次は何にしようかしら」
「豚の貯金箱をふたつ並べて、節約用と、そうだ。温泉旅行用とかどうですか」
「温泉! いいわね!」
「温泉に行こう貯金って名前つけてもいいですか」
「ワクワクしちゃうわね。貯金するのが楽しみになる」
「ですね」
自分、温泉行ってみたかったんです。遠藤はそう言って笑った。それは心からの笑顔に見えて、マリ子の胸にあたたかいものが満ちた。