「ありがとうございます。すっかり忘れていて」

 ニッコリ微笑む時雨さんは本当に美人で女の私までドキリとしてしまう。

「皇子様の御加減はいかがにございまするか?」と、隣で平伏す露さんが尋ねる。

「いつも通りです」

 元気だけど病気のふりをしているのを知っているからそう答えるのが無難だと思った。

「優花様に全てをお任せしてしまっておりますが、何か御座いましたらすぐに私共にお申し付け下さいませ」

 そう言うと二人はそそくさと部屋から出て行った。

「さあ、続きをしようぞ」

 通常運転に戻った皇子は一人でケンケンパッを始める。私以外の人の前で、どうしておかしなフリをしているのか。きっと尋ねても「色々あるのだ」と、はぐらかされてしまうとわかるから何も聞かないことにしている。とても気になるけれど、きっとそこには私が想像できないような大きな理由があるのだろう。