「失礼致します」

 しかし侍女の声が部屋の外から聞こえた途端、皇子の顔から表情が消える。

「優花殿。いらっしゃいますか?」

「あ、はい」

 呼ばれた私は縁側から部屋に上がると、露さんと時雨さんが入ってきた。

「お渡し忘れていたのですが、こちら優花様のお召し物に入っておりました物にございます」

 平伏す時雨さんが差し出した物を見て未来の世界を鮮やかに思い出す。
 赤い紐で口を結ばれた透明な袋。その中に入った色とりどりの小さな飴。これは住んでいる家の近くにある駄菓子屋さんで買った私の大好物。そういえば、うさみみパーカーのポケットに入れっぱなしにしていたことを思い出す。