「……もう、五日か」
皇子からもらった木簡に自分で彫った正の字を見つめる。時計もカレンダーもない飛鳥時代で唯一私が存在する時を計れる方法。原始的だけれど、そんな生活にも徐々に慣れつつある。
この五日間は驚く程に穏やかな日々を過ごしていた。毎朝、五月雨さんの声を合図に目覚めると皇子と一緒に朝食を食べる。そして晴れている日は、お散歩や縁側からの景色を眺めて夜になると皇子と一緒に夕食を食べては眠りにつく。
未来にいる家族や麻美のことが気になるけれど連絡の手段がない私にはどうすることもできない。
「寂しいか?」
目の前で庭に咲いた小さな花を愛でながら皇子が言う。
「ううん」
本当は寂しい。家族や麻美に会いたい。けれど皇子を困らせたくはないから笑って誤魔化す。
「お腹が空いちゃっただけ」と、肩を窄めると皇子はクスクスと笑っている。