この状況で眠れてしまう皇子に感心しながら、私は痛む背中を擦りながら寝返りを打つ。この時代に柔らかなマットレスなど勿論ない。床に薄い茣蓙(ござ)みたいなものを敷いただけ。身体には(ふすま)という薄い布を掛けているけれど寒くて眠れない。
 エアコンの暖房が効いた温かな部屋で柔らかなマットレスの上でふかふかのお布団をかけて眠りたい。
 そんな何気ない未来の生活がとても有難いものだったことを知る。だけど、この世界で食事と寝る場所を与えてもらえただけでも私は運が良かった。
 __ありがとう。

 薄い衝立の向こうに見える月の灯りに照らされた皇子の顔を眺めながら心の中で感謝する。どこか子供っぽいのに落ち着いた話し方をして。朧月のように儚い雰囲気なのに凛とした存在感があって。
 私の時代では出会ったことのないような不思議な男の子。タイムスリップという不運の中で、この出会いだけは唯一の幸運。