「だから今日は愉快なのだ。優花殿がいてくれて」

 ふいに向けられる笑顔に心臓がトクンと波打つ。生まれて初めての感覚に戸惑いながらも、一重の切れ長の瞳を見つめる。目尻にできた皺も弧を描く形の良い唇も。色白の肌も。男の子を綺麗だと思ったのは初めてだった。

「……ありがとう。改めて、これからよろしくお願いします」

 火照る顔を髪で隠すように頭を下げる。
 考えてみたら、しっかりと挨拶をしていなかった。しかし皇子は気にしていないようで、ただ愉快そうに笑っている。

「気にするでない。優花殿が自分の世界に帰る方法が見つかるまでは、ここでゆるりと過ごせば良い」

 天のイタズラなのか何なのかわからない現象に、果たして帰り道などあるのだろうか。誰にもわからない問いを、そっとこの胸にしまうと私は微笑む。
 全く生活様式の異なる時代で生活をすることはとても不安だけれど、暗闇に一人佇む私を皇子という優しい月が明るく照らしてくれるから。
 きっと、大丈夫。そう、思える。